「野田サトル

★この作品は、著者かラー原画に加え、著者の原画をもとに

集英社でデジタル彩色を行った特別編集版です。

野田サトル

カムや

第17回、運動者...

第16話「死神...

第5話、とおい...

ずいぶ、遠吠え...

第13話、長き村...

第12話「カムイモシリ...

第1話「アイヌコタン...

2017年11月25日

第9話、相談...

第8話「逃走...

iPhonight2013年

...

野田サトル

この時点はフィクションです。実施の人数と呼ばれ新作などには、いっきい関係ありません。

・逃走

第8話

ウサギを

食べよう

私たちは

ウサギのことを

イセポと

呼んでいる

「イーッと鳴く

小さいもの」

という意味だ

イセポは大きさのわりに

食べるところが少ないから

チタタッにする

メリメリッキリ

耳の軟骨も

食べる

皮を

剥いて

他の肉や

内臓と一緒に

チタタッにする

無駄が無いねえ

出た!チタタフ

どうしてエゾウサギは

耳の先だけ黒いのか!!

私たちに伝わる昔話に

こういうのがある

おかしむかし

シカはウサギのような

足を持っていた

雪の上を速く走れるので

とてもじゃないが

人間は捕まえることが

できない

そこでウサギが

シカを騙して

自分の足と

取り替えた

騙されたと

気が付いたシカは

焚き火の燃えさしを

ウサギにぶつけた

それが耳に当たって

今でも黒いんだとさ

ふーん...じゃあ

黒い耳が無ければ

真っ白なまんまで

雪の中でも見つからず

こうしてチタタプに

なることもなかったわけだ

つまりその

お話の教訓は

便利な足を手に入れても

それじゃあ意味が無い

「欲を出さなければ

逃げ回る

必要も無かった」

...ってことだな

お元ウォ

ウサギの目玉

食べていいぞ

イーッ

何だその顔

目玉は

その獲物を捕った

男だけが食べて

いいものなんだぞ

いいのぉ?

いいのぉぉ?

あう...

オエッ

オエ?

家食事に感謝することに

うまいか?

ヒンナか?

ヒンナ

よしよし

もう一個あるぞ

エゾマツタケと

オシロイシメジ

去年採って

干しておいた

きのこ類だ

そして香辛料として

刻んで干したブクサ

〈行者にんにく〉を

肉に混ぜた

いただき

ます

ズズ...

ハフハフ

う...

うまいっ

行者にんにくの

臭みが食欲を増す

エゾマツタケの

香りがまた...いい

リスより

脂っこくなくて

あっさり

してるな

ああ...体が暖まる

生き返るぅ〜

アシリパさん

このままでも

十分美味いんだが

味噌入れたら

絶対合うんじゃ

ないの?コレ

ミソって

なんだ?

試しに入れて

みようぜ

杉元それ...

オソマじゃないか

ぅわッ

オソマ?

うんこだ!!

うんこじゃねえよ

味噌だよ

うんこじゃねえって

美味いから

食べてみろよ

うんこだ!!

私にうんこ

食わせる気か!

絶対食べないぞ

うんこじゃ

ねえよ

ズズッ

んん!

うまいッ

思ったとおり

バッチリ合うぞ

ああぁ~

やっぱ日本人は

味噌だな

ビンナヒンナ

うわぁ

ウンコ食べて

喜んでるよ

この男

ひとを

変態みたいに

言うんじゃ

ありませんよ

だまれ

ここをもう少し下ると

大きな倒木の根むくれに

村穴がある

今年もヒグマが使って

いるかもしれない

ヒグマは

自分で新しく

巣穴を掘るが

誰かが掘った

古い巣穴も

再利用する

老練な猟師は

そういう巣穴を

いくつも

知ってるんだ

あそこの倒木の

裏にあるぞ

杉元みてこい

なんで俺が?

入口に

ツララがあったり

生臭かったら

ヒグマがいる

可能性が高い

静かに近づけよ杉元

ぐっすり

冬眠してるんだよな?

カエルみたいに

仮死状態で...

いやちょっと違う

ぅつらうつらして

籠もってるだけだ

うるさくしたら

飛び起きるぞ

ヒグマは

あれ以来

嫌いだぜ

ッララ...

あるじゃねーか

ていねい

熊笹が丁寧に

敷き詰められてる

獣にもこんな器用な

ことが出来るのか

どうだった?

いるかも

捕まえるか?

穴の入り口に

杭を打って塞ぐ

警戒したクマが

杭の隙間から

顔を出したら

毒矢をうつ

でも勇敢だった私の父は

毒矢を握り締めて

巣穴にもぐっていき

どうやって?

アイヌの

言い伝えに

こういうのがある

「ヒグマは巣穴に

入ってきた人間を

決して殺さない」

ひとりでヒグマを

仕留めたものだ

絶対やだ

俺たちは

ただでさえ

危険な囚人を

捕まえなきゃ

ならんのだ

今すぐ

ヒグマ食わなきゃ

飢え死にするって

わけじゃねえし

行こうぜ

火の始末をした

ばかりですね

長靴を履いた男と

鹿皮の靴の子供

アイヌ猟師の

親子か...

尾形上等兵ほどの

男が猟師の親子に

やられたとは

思えんが...

何か知ってるかも

単にひとりで

滑落しただけだと

思いますがねえ

容態は?

一度だけ意識を

取り戻したきりだ

アゴが割れて

話せなかったが

そのとき

力を振り絞って

指で文字を書いた

俺は不死身だとでも

いいたかったので

しょうかね?

いや...

やっとの想いで

我々に伝えたのだ

たしかにあの怪我で

冬の川に落ちて

死ななかったのは

泣かいい

「ふじみ」

軽口のはずが無い

ヒグマって

美味いの?

脳みそに

塩かけて食うと

うまいぞ

杉元

あれなんだろう?

どうした?

アシリバさん

私たちが

今朝まで

泊まっていた

あたりだ

あそこで

何かが

光ってる

やばい!

あれは.....

双眼鏡だ

いました

こちらに気が付いて

逃げ出しました

このスキー板は

「樺太式」または「雰囲式」といい

裏一面にアザラシの皮が

貼ってある

傾斜を登る際は

毛並みに逆らうため

横歩きをする必要がなく、

一直線に進めるという

機動性の高さであった

何人いる?

3人...いや

4人だ!

完全に油断してた!

罠も用意してねえ

まずいぞ...

雪の上では足跡が

目立つから

逃げ切れねえ

ものすごい速さで

降りてくる!

いずれ距離を

つめられるぞ!

どうする?

第9話

もし、新潟県

杉元ッ

笹薮を通って

逃げろ

足跡が

目立たないから

追跡が遅れる

これは

逃げ切れないと

アシリパさん

ふた手に

分かれよう

やつらは

大人の

足跡だけを

追うはずだ

剌青人皮

これを...

もしも

アシㇼパさんが

捕まったら

アシリパさんが

持っていってくれ

俺が持っていれば

おそらく

その場で殺される

一切抵抗せずに

やつらに渡せ!

何も知らない

ふりをしろ

子供までは

殺す連中

じゃない

アシリパさんに

とっては

金瑰さえ見つけて

くれれば

それは

誰だって

いいはずだ

俺が言った

とおりに

するんだぞッ

いいな?

杉元

......?

あいつらと

戦おうなんて

思うなよ!

殺されるぞッ

俺は「不死身の杉元」だ

ありました

こっちです

ふた手に

分かれてます

子供は

あっちです

笹薮を

抜けた

足跡がある

よし子供は

谷垣にまかせた

残りの者は

付いて来い

子供の足跡が

ここで

消えている

「止め足」か...

賢い子だ

だが俺は

東北マタギの

生まれだ

獣の止め足は

何度も見ている

クマなどが

追跡者をまくために

自分の足跡を

慎重に踏みながら

後退し

降りてきなさい

決して危害は

加えないから

近くの笹薮へ

跳ぶ

エゾマツの

樹皮が剥がれて

落ちている...

まだ新しい

お嬢ちゃん

日本語は

わかるかい?

クトゥラシサム

オハウオョシオマレワエ

訳(一緒にいた男は

汁物にウンコを入れて食べる。

まいったな

さっぱりわからん

捕って食ったりは

しないから

降りておいで

..

「一切抵抗せずに

やつらに渡せ」

用があるのは

キミの連れだ

あの軍帽を

かぶっていたのは

お兄さんかい?

お父さん?

聞いても

わからんか

日露戦争へは63名の

アイヌ民族が従軍したという

これは...

まさか

なんで子供が

コレを持っている?

その弓を

下に置け

やはり...

俺の言葉が

分っていたな?

.....!

矢筒と

山刀と小刀も

全部捨てるんだ

止まれ

銃を捨てろ

腰の銃剣もだ

なぜ逃げる?

なぜって...

密猟者を

あんたら

捕まえに

来たんだろ?

禁止されてる

鹿を撃ってたんだ

うーん...

まぎらわしい

このあたりの

山に詳しい

アイヌのガキに

案内させてな

我々の仲間が

近くで襲われたのだ

怪しい奴を

見なかったか?

その顔...

旅順の野戦病院で

見たことがある

さあ

誰にも

会ってないね

第一師団にいた

杉元...

「不死身の杉元」だ。

不死身の杉元?

こいつがあの..

「ふじみ」

尾形上等兵を

襲ったのは

きさまだな?

杉元

板目のまな板は

使わない...

叩くうちに木の繊維が

細かく切れて

肉に混ざるからだ

チタタッで

使っていいのは...

材質が堅く匂いの少ない

ナラなどを輪切りに

したものだけだ!!

イタタニ

【肉切り用

まな板

少女はチクタプに

木層が入ることを

決して許さない...!!

第10話「博打

腹ばいに

なれッ

二人とも

近づき

過ぎるな

「不死身の杉元」だ

何をするか

分からんぞ

腹ばいになって

両手を後ろに

まわせ!

腹ばいになれと

言っているんだ

杉元!

面倒だ

両膝を

撃ち抜いて

しまえ

言うことを

聞け!

チクショウ!

俺は

不死身だああッ!

はあ?

穴に

逃げ込んだぞ

見苦しい

煙で燻り

出しましょうか

しかし...

頭にでも当てて

即死させたら

いや!もういい

蜂とう撃とう

何があったか

聞き出せませんよ

このみっともない男が

鬼神ともいわれた兵士

不死身の核元とは...

信じがたい

本物ならば

死なんのだろう?

我々で

確かめてみよう

じゃないか

そういや

コレって

何の穴ですか?

そう言えば、

うん

ウオズオオオ

落ち着けよ

熊公

山で炭焼きの仕事を

していた俺の

爺さんが教えてくれた

ヒグマに出会ったら

背を向けて逃げるのは

自殺行為

死んだふりも

意味がねえ

ヴオッ

ヴオッ

ヴオッ

アフッ

アフッ

ジッと動かず

穏やかに

話しかけろってな

怒ったままで

襲い掛かられたら

撃っても勢いが

止まらないので

危険だ

立ち上がるのは

攻撃のためじゃない

カプッカフッ

ハゥハゥ

ハゥハウ

目をそらさず

怒りが

鎮まるのを待つ

呼吸がだんだん

落ち着いてきた

俺のほかに

敵がいないか

安全確認...

ここまでは

爺さんの

言ってたとおりだ

あとは

ゆっくり...

狙いすました

一発を

まあ...結局

爺さんは

炭焼き小屋で

ヒグマに

食われてたけどな

頭に...

爺さんの

仇だぜ

ヒグマは頭の大きさのわりに脳は小さい

脳に弾が入らないかぎり、

死ぬことはないため

頭を狙う習慣がないとアイヌの猟師は言う

ギャーッ

どうしたぁ

ひるんだか

アイヌに

山の神と

崇められてる

分際でよぉ

帝国陸軍

第七師団相手に

ただで済むと

思うな

ブゥオ

オオオ

オオ

ははは

かかって来いッ

ギャウ

「リコシノッ」

というアイヌの

言葉がある

意味はヒグマの

「投げ上げ」である

ヒグマはしばし

攻撃対象に

噛み付いては

強靭な背筋力で

投げ上げ...

何度も地面に

叩き落とすことを

繰り返し弄ぶ

ドッ

...

「ヒグマは巣穴に

入ってきた人間を

決して殺さない」

アシリパさんが

言っていたことは

本当だったみたいだ

アシリパさん

うまく追っ手を

まいたかな?

お前の母ちゃん

死んじまって

ほっとけねえから

連れてくけど...

アシリパさん

お前をチタタフにして

食っちまうかもな

犬の倍はある

大きさの牙...!

女目の

巻いていない

尻尾...!

狭い

胸幅に...

狭い胸幅に...

長い

前足の指!

そして何よりも

この体格の大きさは...

北海道犬でもない秋田犬でしない

北海道犬でもない

秋田犬でもない

こいつは

すでに

絶滅したはずの

第11話アイヌコダ

レタラ

エゾオオカミ

...

あぐぅ

レタぅやめろッ

もういい!

お前は最後の

ホロケウカムイ

狼の神様

なんだから

私のために

ウェンカムイ

悪い神様

なんかに

なっちゃだめ

でも

助けてくれて

ありがとう

よおぉ~し

よしょしよし

ここか?

ああ?ここだな?

知ってるぞ?

アシリパ

さーん

杉元だ!

上手く逃げて

きたか

良かった

無事だったか

あ...

あの時の

白いオオカミだ

いいか

静かにしてろよ

アシリバさんたちに

見つかるぞ

ブブブ

そこの兵士は

オオカミが?

行こう

もう死んでる

死んでるのか?

あの足では

もう追っては来れない

強そうな男だから

ほっといても

死ぬことは無いだろう

杉元それ

どうした?

やああ

ああッ

ブブブウブブ

これは

何でもないッ

関係ないッ

お兄ちゃんそんなこと

お元ぉ

こいつは

俺が面倒

見るッ

もう一度よく

見せて

みろよぉ

ああ?

おその子郎

どうする

つもりだぁ?

母親代わりに

なるんだあ

なるんだあ

......って

子供を育てた経験は

あるのか?

そいつが何を食べるか

知ってるのか?

☆杉元視点

よし行こう

私のコタン(村)へ!

はあ

はあ

はあ

わかった..

こいつは

アシリパさんだけで

食ってくれ

こいつの脳ミソに

塩かけて食うとか

俺には無理だ

ヒィッ

ブブフブ

はあ?

食べんぞ

え?

私たちは猟で

子熊を捕まえたら

村で大切に

育てる風習がある

「アイヌコタン」

大きな川や河口付近に

数戸〜数十戸の

チセ(家)で形成され

村長を中心に秩序正しい

社会生活を喜んでいた

ヌササン

祭壇

ヒグマの頭骨等が祀られている

「ムックリ」

アシリパが

帰ってきた

アシリパ

アシリパ

おかえり

見て

アシリパが

シサムを連れて

帰ってきたわ

プ」

貯蔵用の倉

みんな

俺を

怖がら

ないな

アイヌは

好奇心旺盛だ

「新し物好き」

なんだ

フチ!

(おばあちゃん)

これが私の

チセ(家)と

母方のフチ

祖母)だ

はじめまして

お婆さん

俺はこいつを

預けに来ただけだ

長居はしない

すぐにここから

出て行くよ

和人と戦うために

軍資金を

貯めていた

連中の村だ

歓迎はされまい

フチは

シサムの言葉が

分からない

......

飯を食って

泊まっていけと

言ってるぞ

当時のアイヌ民族は

和人と毛皮などの商取引

のため必要に駆られて

日本語を身につけており、

残りのうち

約三割は

まったく日本語を

話せない層も

存在したという

全体の約三割が

日本語を

使いこなしていたが

俺がここにいては

ふたりに迷惑が

かかるんじゃないか?

タネポアシリパタクニシパネクス

アキヤンネレナー

「訳初めてアシリバが連れてきた

客だから、

私たちはもてなそう

大丈夫だ

死んだエカシ(祖父)は

村で一番偉かったから

フチ(祖母)にも文句

言う奴はいない

見ろこの入れ墨

偉い人の奥さんほど

大きな入れ墨を

するんだ

それにみんな

お前に興味が

あるようだぞ

はは...

美しいオオカミだった

あの白銀の毛並み:

欲しい...

東北マタギの血か

東北マタギの血か

ふふ.....

どこまでも

追いかけて必ず

しとめてやる

第2話カムイモシリ

この家に

ほかの

ご家族は...?

フチ(祖母)

だけだ

別のチセ(家)に

おじ夫婦がいる

エカシ(祖父)は

6年前に

病気で死んだ

母は私を産んで

すぐに病気で

死んだから

よく知らない

「イテセニ」

ゴザ編み機

アシㇼパエキムネバテクキワ

メノコモンライケエアイカブ

家訳アシリバは山に入ってばかりで

女の仕事ができない

ケメイキネヤイテセネヤ

メノコモンライケーエアイカブメノロ

アナッアイヌホクコロカ

エアイカッ

〈訳縫い物や織物も

女の仕事が出来ない女は

アイヌの夫を持つこともできない

タネシヌイェクニパハ

ネコロカコパン

〈訳もうすぐ

入れ墨すべき

年であるのに

嫌だと言う

入れ墨は嫌だって

言ってる女の子は

ほかにも

たくさんいる

フチは古い!

スギモトニㇱパタン

マッカチェトゥンワーエンコレ

(訳杉元の旦那

この女の子を

嫁に貰ってくれ

タンクミッポホ

クエポタラワーモシリー

クホッパカッコヤイクシ

〈訳孫が心配で

私はこの世を

去ることもできない

......

お婆ちゃん

俺になんだって?

うんこ食べちゃ

駄目だって

うんこじゃ

ないんですよ~?

お婆ちゃん!

アイヌは他民族との

結婚は禁じていない

ロシア系などのアイヌも

多数存在し

味噌なんですよ~?

北海道の北や東に住む

アイヌは体格も良く

屈強であったという

シンナ

キサラ

私たちと違う

変な耳だと

言ってる

アイヌの

耳たぶは

丸くて厚い

なんだい?

おい

変な耳

俺はスギモト

杉元ってんだ

お嬢ちゃんは?

あたし

「オソマ」

うんこだろそれ

バカに

しやがって

ほんとうだ

その子は

オソマと呼ばれてる

え?

私たちは赤ん坊に

病院が近寄らないように

汚い名前で呼ぶんだ

シ・タクタク「糞の塊」

オプケクル「屁をする人」

フウラテッキ「臭く育つ」

とかな

6歳くらいになって

性格が出てきたり

その子が起こした

出来事などにちなんで

ちゃんとした名前を

つける

エカシオトンプイ

エカシオトンプイ

「祖父の尻の穴」だ!

アシリパさんは

何て

呼ばれてたんだ?

そりゃ病魔も

逃げ出すわ

何を

飲ませてるんだ?

肉汁と

米汁を

混ぜたもの

三年もすれば

母親と

同じくらい大きくなる

アシリバさん

子熊に触ろうとも

しないけど

苦手なのか?

こんな可愛い生き物が

あんな怪物になるとは

信じられんなぁ

べつに...

杉元もあまり

可愛がると

情が移るから

やめておけ

......

いや...

私たちの伝統儀礼で

神々の国へ送る

こいつは

大きくなったら

山に帰すん

だよな?

それって

つまり...

私には昔

弟みたいに

世話をした

子熊がいた

一年経った頃...

倒礼の前に

私が黙って子熊を

山に逃がそうとしたから

みんなに凄く怒られた

だから悲しくて

その子態を送る祭りだけは

参加できなかった

やっぱり

殺すのか

こいつを...

殺すというより

「送り返す」という

考え方だ

私たちは

身の回りの

役立つもの

力の及ば

ないもの

すべてを

カムイ(神

として敬い

感謝の儀礼を

通して

良い関係を

保ってきた

火や水や大地

樹木や動物や

自然現象

服や食器などの

道具にも

すべてカムイがいて

神の国から

アイヌの世界に

彼に立つため

送られてきてると

考えられ

粗末に扱ったり

役目を終えたあとの

祈りを忘れば

災いをもたらすと

されてきた

動物のカムイの

中でも

位が高いのは

熊のキムンカムイ

狩猟を生薬にしている

私たちにとって

動物のカムイは

重要な神様

その子熊を

育てることは

名誉なこと

動物たちは

神の国では

人間の姿をしていて

1〜2年

おりの中で

大切に育てられる

私たちの世界へは

動物の皮と肉を持って

遊びに来ている

「ヘペレセッ」

子熊のおり

飼っていた子態を

送るときは

村をあげて盛大な

倒礼を行う

この儀礼は

「イオマンテ」と

呼ばれている

歌って踊って

私たちの住む

この世界が

楽しい場所だと

他の神様に

伝えてもらう

たくさん食べ物を

用意して子熊の魂に

お土産を持たせ

神々の世界に送り返す

そうすれば

カムイたちは何度でも

訪れてくれる

アシリパさんは

それ信じてるの?

信じてたら

子熊を殺すことは

悲しい事じゃ

ないんだろ?

え?

どこかで

信じてないから

子熊を

避けてるんじゃ

ないのかい?

信仰の中には

私たちが生きる

術が入ってる

例えば捕まえた子熊を

育てるのは

大きくなれば

それだけ毛皮や肉が

とれるからだと私は思う

考え方が

現実的だな

アシリパ

という名は

父がつけた

「新年」という

意味だが

「未来」とも

解釈できる

そうやって私たちは

生きてきたから

正しいことだと

私は信じてる

でも

別れるさびしさは

どうしようもない

だから私は決して

情が移らないように

距離を置くんだ

やっぱり

アシリパさんって

アイヌのなかでも

ちょっと変わって

るんじゃないの?

わたしは新しい時代の

アイヌの女なんだ!!

旺盛な性欲が

アダになったな

不敗の牛山!

土方のジジイ!

どうしてここが

おまえが

売ったな?

痛い痛い癪い

折れるぅぅう

...

元新撰組だか

どうだか

しらねえが

この石頭を確実に

叩き割れる

自信はあったのかい?

そりゃ当然

これを見ろ

牛山

油紙を体に貼り付け

透かして入れ墨を

書き写せば

精確な暗号が

手に入る

殺し合わずに済む

協力しろ

我々に必要なのは

利害関係だ

人を集めて

何を始める気だ

爺さん

いずれ

第七師団とやり合う

ことになる

連中が持っている

刺青人皮を奪い取る

刀なんぞ

時代遅れなものを

身に付けて

帝国陸軍相手に

斬り合うつもりか?

いくつになっても男子は

刀を振り回すのが

好きだろう?

コタン(村)近くの

清流へ来た

ふたりと子熊

第15話・憑き神

ブブブラブ

ふふふああ

「ヘペレエシノッペ」

子熊のおもちゃ

ラウォマブという

川魚用の罠だ

昨日のうちに

仕掛けておいた

のを引き揚げた

すげえ

捕れてる!

エゾハナカジカだ

こいつらは寝るときに

岸に来るから

ラウォマッを岸の近くに

沈めておいた

カジカは

冷たい水が好きだから

冬によく捕れる

冬のカジカは

脂がのっていて

美味い

鍋にする分は

ここで内臓を

とってしまうから

杉元も手伝え

やべ...

小刀も銃剣も

アシリパさんの

家に

忘れてきた

こっちの林を

突っ切ったほうが

早いな

カジカは早く

捌かないと

味が落ちる

早く取りに行け

バカ!

ヒドー

止まれ!

そこを

動くな!

......

なんか用か?

足元のヒモに

触れるな!

!?

これは「アマッポ」

という仕掛け矢で

ヒモに触れると

毒矢が飛んでくる

熊や鹿などを

捕るものだが

これは

カワウソを

捕るために

置かれた

ニホンカワウソは

質のよい毛皮のために

乱獲され

明治大正期で激減し

北海道亜種は脚年代に

絶滅したとされている

この矢に塗ってる毒は

アカエイの毒針が

入ってない

トリカブトだけのものだから

即死はしないが

長く苦しむ

私のいとこが

アマッポにかかって

すぐに矢を抜いたが

傷口に毒が残り

アイヌの

コタン(村)の

近くにある森は

不用意に

歩かない

ほうがいい

私の名は

マカナックル

何日も苦しんで

最後は全身が

倍に腫れて死んだ

恐ろしい...

そうだったのか

助かったよ

ありがとう

アシリパは

私の姉の娘だ

アシリパは

父親を亡くしてからも

ひとりで

山へ行ってしまうから

心配だった

お前みたいな

強そうな男が

一緒なら安心だ

アシリパは

頭がいい

そして

オソマちゃんの

父親

あいつが

なつくんだから

お前は悪い奴じゃ

無いのだろう

さっきはすまない...

和人の俺を敵視する

人間がいると

思っていたから

いやいや

こっちが

助けられっぱなしで

アシリパから

聞いたのだろう?

砂金を採る川は

水が濁り

魚が息をすえない

私たちの村の

人間がシサムと

戦うために

砂金を集めて

いたことや

それを奪われて

アシリパの父たちが

殺されたこと

ワッカウシカムイ

〈水の神〉の怒りだと

みんな言っている

カジカヤマメ

アユなどは

綺麗な水にしか

住めない

あの砂金は我々の

先祖が採ったもので

何十年も

ずっと触れられずに

いたものだった

それを一部の

男たちが

武器を買おうと

手をつけた

アイヌは川では洗濯をせず

排泄物も流さない

サケもマスも

海から戻ってこない

犯人に心当たりは?

無い

そこまでして我々が

汚さないように

気をつけている川で

砂金なんて採るから...

それを食べる

カワウソやキヅネや

ヒグマもいなくなる

アイヌが争いのために

川を汚すなんて

絶対にあってはならない

あの砂金は

魔物が憑いている

戦われたものだったのだ。

お婆ちゃん

こんなに魚が

捕れましたよ!

Q.

自分の守り神に

お供えしてる

なにやってんの?

人に何か貰ったら

憑き神に

おすそ分けするんだ

憑き神は

首の後ろから

出たり入ったりしてる

「トゥレンペ」

といって

人間は誰でも

産まれた瞬間に

守り神が憑くと

考えられている

トゥレンペは

火や水や雷

狼や熊などの神様で

人によって

違うものが憑く

人の能力や性格が

違うのも

そのせいだと

いわれている

運命も左右する

アイヌの中には

それが見える人も

いて

フチは

ちょっと見える

へえ...

俺が不死身と

言われるのも

守り神の

おかげかもな

つーか

アシリパさんが

首の後ろに

お供えするの

見たこと無いけど

この村じゃ

年寄りしか

やってないし

杉元は

とても強い

トゥレンペが

憑いてるって

まったく

若い奴は

...

ダイコン

ニンジン

ジャガイモ

ホウレン草に

昆布

そして

素焼きしておいた

カジカが入っている

カジカで出汁をとった

キナオハウ

野菜がたくさん

入った汁物)だ

美味そう

いただきま..

いただきます

んんん

うまいっ

たっぷりの野菜が

うれしい

こんなにたくさん

根菜を食べるのは

何日ぶりだろう

カジカの塩焼きも

脂がのっていて香ばしい

カジカの退厚でコクのある

出汁がきいている

カジカの

銭うめえ

ふざけるなよ

杉元

うんこを出すな

アシリパさん

このままでも

十分美味いんだが

味噌入れたら

絶対合うんじゃ

ないの?コレ

淡水産のカジカは

北陸では

ゴリ料理として有名で

味噌がとても合うことを

アシリバはまだ知らない

ほうらお婆さん

これが味噌ですよ

いや...

ヤメローッ!!

フチの凄き神様に

うんこお怯えさせ

やがって..

うんこ

じゃね...

ヤダなにその

変な棒!

「ストゥ」制裁棒

村人の中に窃盗や殺人など

悪い行いがあった場合

制裁を加えるための物で

乱用は許されない

ストゥいろいろ

もし、

鶴見中尉殿

これ以上の

捜索は困難です

この雪がすべての

痕跡を隠すでしょう。

四人とも

山に慣れない

者ではなかった

はずだ

谷垣においては

マタギの

生まれだった

遺難したとは

考えにくい

鶴見!

責様

私の部下たちを

勝手に小樽まで

引き連れて

どういうつもりだ

これはこれほ

和田大尉殿

一名は重体

四名が行方知れず

一体

小樽でなにを

しているのだ?

おまけに旭川から

武器弾薬もごっそり

持ち出してきた

そうではないか

ただでは

すまされんぞ

鶴見!

失礼

...

変な汁が

そもそも

そんな怪我の

ありさまで

今後も中尉が

務まるか

鶴見!貴様が

陸軍に戻る場所は

もはや無いと思え

本天会戦での

砲弾の破片が

前頭部の頭蓋骨を

吹き飛ばしまして

たまに漏れ

出すのです

もう

庇いきれん

うおおお

鐵見ぃ!!

血迷ったか

あぁあああ

ポウッ

頭蓋骨と一緒に

前頭葉も少し

損傷してまして

それ以来

カッとなりやすく

なりましてね

申し訳ない

それ以外は

いたって健康です

向かい傷は

武人の勲章

ますます

男前になったと

思いませんか?

正気ではないな

撃て

はい!

服を脱がせて

埋めておけ

春には綺麗な

草花の養分に

なれる

戦友は

今でも満州の

荒れた冷たい

石の下だ

ロシアから

賠償金もとれず、

元屯田兵の

手元に残ったものは

やせた土地だけ

我々の戦争はまだ

終わっていない

第14話

遠吠え

さあ

捌いて食べよう

カワウソは

ウサギと違って

皮の下の脂が

多いから

毛皮を剥ぐのが

大変だ

頭の後ろの骨が

薄いので

ここを割って脳みそを

ほじくり出して

食べる

塩をかけて

食うとうまいんだ

でもこの脂が

美味いので

肉のほうに残るように

剥いでいく

ハイハイ

脳ミソね~

でもな

杉元

毒矢で捕った獲物は

加熱しないと

毒が弱くならない

このカワウソも

トリカブトの毒矢で

捕ったものだから

脳みそも目玉も

生で食べられない

残念だったな

杉元

え~っ

だめなのぉ?

生で食べちゃ

だめえぇ?

私たちはカワウソを

エサマンと

呼んでいて

昔話には物忘れの

激しいカムイとして

たびたび出てくる

狩猟へ行く前に

エサマンを

食べるときは

だから

イオマンテなどの

大事な儀式のときに

食べてはいけないし

名前も禁句だ

儀式の順序を

忘れるから

忘れ物をしないよう

身支度をしてから

食べる

カワウソの肉は

食べやすい大きさに

ブツ切りしておく

干したプクサ

〈行者にんにく〉で

肉の臭みを打ち消す

あとは肉の

うまみが増す

ニリンソウ

獣の肉は

根菜類が合うので

ダイコンにゴボウが

入っている

カワウソの

オハウ(汁物)だ

いただきます

うんうん

たしかにクセがあるが

行者にんにくの

おかげで

そんなに気にならない

んっんっ

やわらかいし

なにより

脂身がトロトロで

うまい!

もっと

美味しい部分が

あるぞ

しつこさが無くて

上品な味だな

なになに?

カワウソの頭の

丸ごと煮だ

杉元

食べていいぞ

カワウソの頭を

丸ごと煮込んだ料理は

非常に美味とされ

頻繁に食べられていた

記録が残されている

あ...

は...

どうやって

食えばいいの

コレ

肉をカジり取れ

は.....

あ...

あ...

早く食え

アシリパ

これやって

アシリパが

一番おっかない

いいぞ

キサラリといって

意味は「耳長お化け」だ

なんだ?それ

使い方は窓の外から

チラチラ出しながら

この世のものとは

思えない声を出して

子供を驚かす

夜泣きをする

子供なんかは

すぐ泣き止む

杉元

試しに

やってみろ

おれか?

んわぁぁぁおぅ

おほん

わわわぁ

にゃああ

ヤめろやめろ

ひっこめ杉元

恥ずかしい

それをよこせ

手本をみせてやる

おほん

うぇろろろう

ごうろろろあああ

ああッッ!!

はあああ~

やっぱアシリパの

一番おっかねぇ

......

オソマが

もらした

アシリパさん

汚名を返上

させてくれ

そうか

わかった

みんな!

もう一度

やらせて

欲しいそうだ

わかった

よし杉元

お前の本気...

見せてみろ

おほん

ㇷううわあああ!!

「ウコ・カリフ・チュイ」

投げ輪突き

つる輪を高く投げ上げ

数人で競って

棒で受ける遊び

アイヌの子供たちは

遊びの中で狩りや魚を

捕るための練習をした

#1

「ラッチャコ」燈明台

ホタテの貝殻に

魚や飯の油が入っている

聴こえるか?

杉元さん

珍しい音だぞ

......

犬よりも太くて

長く続く遠吠え

狼のものだ

大きな白い狼が

アシリパさんを

守るのを二度見た

どういう

関係なんだ?

いつも一緒だった

その日も今夜のような

遠吠えが風に乗って

アシリバたちに届いた

そうか...やはり

あの遠吠えは

レタラだったか

あの狼はアシッパと

その父親が

山へ狩りに行った時

ヒグマに

襲われているのを

見つけて拾ってきた

小さい雪だるまの

ようだったから

「白い」という意味で

レタッと名付けた

父親が殺されたあとも

アシリバはレタラと

ふたりきりで山へ行った

だがふたりは

生きる世界が

違ったのだ

遠吠えだ...

......

レタラ...

これは

おまえの...

ダメだ!

クーン

聴いちゃ

ダメッ!

ダメだ

待て!

止まれ!

小屋に

戻れ!

レタラ!

あいつは

飼い犬には

なれなかった

レタラ!

誇り高き

ホロケウカムイだから

行くな!

戻って来い

レタラ

おまえも私を

ひとりにするのかッ

わぁあああ

あぁあああ

行かないで

レタラ...

アチャ(お父さん)

大人びてはいるが

アシリパは寂しがり屋の

いたいけな子供なのだ

そんなことが

あってから

アシリパは笑顔を

見せなくなったが

最近は

すいぶんと

明るくなった

杉元さんと

山にいるのが

楽しいんだろう

スギモトーニシパ

アシリパアナクネ

クエヤムペネ

ネイタバクノトウラノ

アンワウンコレヤン

わかったよ

お婆ちゃん

アシㇼパさんは

お婆ちゃんに

愛されてるんだな

村のみんなにも

元気でな

...

第15話

におい

杉元のやつ

許せん...

黙って

出て行くなんて

勝手すぎる

私にも理由があるから

一緒に行動してたのに

追いかけて

ストゥ(制裁棒)で

後頭部を殴らなきゃ

気がすまない

ストゥの乱用は

決して

許されていない

あるいは

杉元の身に

何かあったのか...

嫌な予感がする

あの大きな街で

歩き回って

見つけ出すのは

とても難しい

狩猟小屋は全て

見て回ったのに

使われた形跡は

無い

私が追ってくるのを

予想してのことか

どうすればいい...

なにか方法はないだろうが、

街へ行ったきり

山へ戻ってないのか

...

イパブケニ〔鹿街】

薄くのばして

張られた

鹿の膀胱が

振動して

鹿の鳴き声に

よく似た音を出す

弓の射程距離まで

鹿を近づかせる道具

遠吠えには

たくさん種類があって

真似はできない

でも獲物の声が

聞こえたら必ず

確認しに来るはず

鹿の通り道を回って

鹿笛を鳴らせば

鹿がいると勘違いして

アイツが来るかも

知れない

お願い..

気付いて

イヌよりも嗅覚が鋭い

そのカムイは

嗅覚の鋭い動物は

相手の体臭から

感情を読み取る能力が

あるとされている

アシリパが

動けを求めていることを

匂いから感じ取った

私の場合、ありがとう。

人力橘

当時の雪国の主な

交通機関で坂道の多い

小樽では特に花柳界の

芸者に喜ばれた

え...

そんな

まさか..

梅ちゃん?

ハコベラ

こっちは

ハハコグサ

お母ちゃん

目が悪いけど

おかあちゃん

これはー?

これはレンゲかな?

そのぶん

鼻がいいの

どうして

わかるのー?

あの...

うちの者に

なにか

御用でしょうか?

これ...

寅次です

指を持って帰るのが

精一杯でした

そうでしたか

遺体は戻らない

ものとあきらめて

おりました

何とお礼を

申し上げて良いか:

だれか来たの?

兵隊さん

あら?

あなた

もしかして..

......

佐一ちゃん?

ほんとに

佐一ちゃんなの?

杉元佐一さん?

え?

佐一ちゃん

わたし...

もう目が...

ボンヤリとしか

見えなくて

佐一ちゃん

帰ってきたの?

あなた...

どなた?

...

梅ちゃん...

俺はどんな

臭いがした?

梅ちゃんの

知ってる俺は

もうこの世に

いないのだろうか

待ってくれッ

梅ちゃん

眼が治っても、すぐに俺だと分かってくれるかな...

どうしたの?

お兄さん

怖い顔して

いや...

そうだよな

こんな北の港町で

梅ちゃんが

体を売ってるワケがねえ

人ちがいだ

早く何とか

しないと...

おいデカブツ

ああ?

ああそうだ

あるぜ!

知り合いの店の

女がよぉ

客に大ケガさせ

られたんだよ

犯人を探して

くれたら

礼はするぜ

俺は娼館で生まれ育ったんだ

娼婦に乱暴する奴は

絶対に許せねえ

なんだあんたか

最近変わったことは

ないか?

なにか情報をよこせ

おいおい

それのどこが

変わった話だよ

いや

その寄ってのがさ

変わった入れ墨を

してたんだってよ

本当大事なことですか?

いまあたしが

その娘を

連れてくる

からさ

蕎麦でも

食べて

待っててよ

うちは蕎麦も

絶品だから

御武正太さそばォェェ

にしん蕎麦

明治時代

小樽の発展にニシンが

関わるほど

ニシン漁が盛んであり、

当時の小樽新聞には

さまざまなニシンの

料理法が

紹介されていた

ツユが濃い...

ツユが

濃い...

関東生まれの

俺好みだな

ふう~~

こいつはヒンナだぜ

にしん薔麦の元祖は

京都であるため

小樽のにしん蕎麦も

関西風の薄口かと

思いきや

小樽のそば文化は

関東風の濃い口が

主流であった

クチのなかで

ほろほろとくずれる

このニシンの甘露煮

ババアの言うとおり

絶品だな

どの

男だ?

入れ墨のことを

探ってる奴は

軍帽の

兄ちゃんだよ

ぐはあッ

動くなっ

はっ

ひざまずけ

この状態で撃つと

お前の顔から

飛び出した弾が

誰かに当たるかも

しれん

さがれ

毅そう殺そう

ぶぶぅ~

ぶぶぅ~

尻の匂いを嗅ぎ合い

相手の機嫌や体調を

推し量る図

第16話

死神

あー

そこまで

まだ殺すな

私はお前の

死神だ

お前の寿命の

ロウソクは

私がいつでも

吹き消せるぞ

俺は

大怪我させられた

娼婦の上客に

頼まれただけだ

妙な入れ墨の男を

探して

そいつに仕返しを

してくれって

その娼婦を呼んで

くれっていったのに

銃を持った連中が

囲んできたら

わけも分からず

逃げ出したくもなる

だろう?

ダメか..

なんとかこの場を

切り抜けないと

甘いものは

好きか?

え?

小樽の花園公園

名物の串団子だ

......

うまい

甘いものは

久しぶりなんで

唾液腺が弾けそうだ

「ふじみ」

川岸で瀕死の

部下が見つかり

ふじみ

指で文字を書いた

「ふじみ」

ごちそうさま

出口は向こうかな?

尾形上等兵を

やったのは

お前だな?

不死身の杉元

座れ

おまえら

そっくりだな?

銃で俺を殴ったのは

どっちだ?

印をつけとけよ

おテコとかに

殺してやる

人違いだな

俺は

杉元なんて

名前じゃねえ

一度だけ

「不死身の杉元」を

旅順で見かけた

少し

遠かったが...

鬼神のごとき壮烈ないぶバリニートなの

現在のことで、戦いぶりに目を奪われた

あのとき見たのは

お前だ

そば屋の前での

大立ち回りを見て

ピンときた

俺は

第二師団だ

旅順には

行ってない

やはり人違い

だったみたいだな

なぜ尾形上等兵は

不死身の杉元に

接触したのか...

それはお前が

金塊のありかを

示した入れ墨の

暗号を持っていた

からだ

...と

ここまで話が

つながることを

恐れて我々から

逃げようとした

刺青人皮を

持っている

のだろう?

どこに隠した?

金塊?刺青?

何を言ってるのか

さっぱりだが

俺の荷物はもう

調べただろう?

ケツの穴まで

調べて構わんぞ

お前らの大将は

アタマ

大丈夫なのか?

脳が少し

砲弾で

吹き飛んで

おる

ぷっ

...

ばははは

たいした男だ

まばたきひとつ

しておらん

やはりおまえは

不死身の核元だ

だがな

俺がロウソクを

頭からぼりぼり

齧って消してやる

お前がいかに不死身で

寿命のロウソクの火が

消せぬというのなら、

杉元の

かたっぽ靴下ちゃんだ

かわうそを

食べたあとに

出て行ったから

レタラ

このにおいだ

やっぱり

忘れ物を

した

レタラは目立つから

夜を待とう

この場を

生き延びる方法が

ひとつだけある

私の下に付くことだ

私は部下を

戦争で

たくさん失った

人手が足りん

100名弱の人員が

北海道各地に

散らばり

活動しているに過ぎない

金塊を山分けするには

お仲間が

多すぎやしないかい?

金塊は

軍資金だ

旭川から

ちょろまかした

武器弾薬では

心もとない

あんたら

いったい

何をする気だ?

アメリカ人から

武器を買う

世界中から

集めた最新式だ

手始めに

第七師団をのっとり...

本州に送る天然資源の

通り道である

主要な港町を制圧

北海道を

手に入れる

戦場では英雄だったのに

故郷へ帰れば放浪生活

何か報われたか?

失ったものの方が

多くはないか?

私はお前のように

勇猛な兵士が欲しい

我々と

共に戦ってくれ

付き合ってられん

ロウソク

ボリボリ

しちゃおうか

狼は...

体の大きさに対する

脳の割合が

犬よりも30%大きく

その分の知力が

有効に使われている

高鼻で

空気中の

においを嗅ぐ

大気中の数千兆の

分子から

たった一つの獲物の

分子を特定できるため

数キロ先の獲物を

探知する

第17回追跡は

嗅覚は人の数万倍で

30億個以上のにおいを

嗅ぎ分けられるが

もしかし

対して抜群に

優れた嗅ぎ分けの

能力を発揮出来るのは

アンモニアや酢酸など

種類によって

反応に差があり

植物や人工物など

狼の生活に不必要な

においには鈍く

つまり

獲物の体臭である

第17話・追跡者

ホロケウカムイこそ

最強の追跡者である

このなかに

いるのか?

でかしたぞ

ついに

見つけたか

よし

行けッ

どうした?

うううっ

うわあああ

妖怪!?

え?

痛だッ

「チノイェタッ」

燈火用樺皮

あれ?

杉元じゃない

俺は

「脱獄王」の

白石由竹だ!

お前は確か

「脱糞王」の...

なんだおめえは

このあいだの

アイヌのガキ

じゃねえか

いただただだだッ

食べちゃダメ

レタラがにおいを

間違うはずがない

杉元はどこに

いる?

いるわけねえだろ

俺ひとりだ

くっ下?

おかしい...

杉元の靴下のニオイを

レタラに憶えさせて

追ってきたのに

なんで自石の

ところなんかに...

まさかあのとき...

間違いねえ

あのときに靴下を片方

取り違えたんだ!

まだ生きるから

生乾きだけど

もういいだろ

気持ち悪い

何だおまえ...さては

杉元に裏切られたな?

どおりで

いつの間にか

靴下が片方だけ

新しくなってた

わけだぜ...

だまれ

入れ墨の皮を

持ち逃げされ

たんだろ

なるほど合点が

いったぜ

やはりあの噂は

杉元だったか

いただだだ

あの噂って

なんの

ことだ?

俺は常に

街の情報を

集めている

きのう私娼窟で

顔に大きな

傷あとのある

軍帽の男が

大暴れの末

杉元が刺青人皮を

持ち歩く馬鹿なら

今頃はもう

とっくに殺されて

いるだろうな

第七師団の

根城に

連れ去られた

噂を聞いた

そこへ案内しろ

この群矢は

ヒグマなら

十歩だが

おまえなら

一歩も動けずに

死ぬ

わかったよ

わかったから

こっちに向けるな

ちょっと待ってろ

目覚ましに顔を

洗ってくる

やっぱり

嫌な予感が

当たった

まったく物騒なガキだぜ

まったく

物騒なガキだぜ

杉元...

どうした?

あ...

逃げた

ほっ

とうっ

はっ

いただただだだ

レタラは

お前の全速力と

同じ速さで

晩中走り続けられる

たとえ便所の下に

隠れようと

レタラは見つけ出す

何度でも

逃げてみろ

脱獄王

ホロケウカムイの

追跡からは

決して

逃れられないぞ

仲間になるプリを

すべきだったかな?

いやあの

鶴見とかいう

中尉は騙せそうにない

俺が入れ墨の皮を

持っていると確信していた

仲間になろうが

必ず隠し場所を

聞き出すだろう

イレズミー

刺青人皮は...

ヒグマにやられた

兵士たちから剥き取った

装備と一緒に

隠してしまった

場所など

言えるはずもない

大失敗だ...

ケチな真似を

したばっかりに

生きてるか?

串団子野郎

こいつが

あの「不死身の杉元」

だなんてよお...

本当に人違い

じゃねえのか?

なあ洋平

でもよぉ浩平

昨日俺が

ここでしこたま殴って

顔が倍になってたのに

もう腫れが引いてるぜ

不死身の杉元ってのは

軍医があきらめるような

怪我でも翌日には

治ってたらしいな

はらわた全部

引きずり出しても

明日には治ってるのか?

殺したら

刺青の隠し場所が

わからんぞ?洋平

それも本当に

持ってるのか

あやしいもんだ

いつまでも

生ぬるいこと

やってないで

ありかを吐くまで

指を落とし

続けりゃいい

なんだって?

ああ?

寝言いってんじゃ

ねえぞてめえ

ポソポソ...

おまえ

見分けがつくように

印をつけてやる

ぅおぉおおッ

俺は不死身の

杉元だ!!

杉元だ!!

ゴールデンカムイ2時

〈訳杉元さん

訳アシリパは

私の宝もの

「訳、いつまでも彼女と

一緒にいてください

スパラャルトークス

相手編集・

大熊八田

おまけ

はふはふ

ヒンナ

カワウソ

ヒンナだわぁ

ほらあ

杉元ぉ

カワウソの

肉がホッペに

付いてるぞ

おっと...

どこ?

慌てて

食べるから!

取れた?

くいしん坊の

赤ちゃん

みたいだな!!

【アイス語監修】

中川裕

【収納協力】

北海道アイヌ協会

博物館「網走監球

小樽市総合博物館

【アイヌ文化関係参考文献

「アイヌ語絵入り辞典J知里高央横山孝銀

「アイヌの民具」営野度

「宇野支のアイス語辞典」高野茂

「アイスの民具実態関係集」武装野美衛大学_生活文化研究会

「アイス式エコロジー生活・治療エカシに学ぶ、白然の知恵」さとうち艦

いや、それでも

「アイヌ神語集」知里幸恵

「アイヌ民族の軌跡混印鑑治

「先生民アイヌ民族(別冊太陽川ムック

「シラオイコタン木下清蔵遺作写真集」

「アイヌのお肌文化」アイヌ民族博物館

「アイヌの四季計良智子〈銀治明香

「アイヌ植物誌」福岡イト子佐藤が子

「アイスの民俗」早川昇

「クスクップオルシベ「砂沢クラ

聞き書アイスの食事:秋中美枝_藤村久朝村木美幸畑井朝子古原験弘

「ニューエクスプレスアイヌ語|中川裕

「アイス語千歳方、言辞典』中川裕

「カムイユカってアイス語を学ぶ旦田裕、中本ムツ子

「語り合うことばの力カムイたちと生きる世界中月給

overdeslgnt

hokoshisuendgo

YJC

DIGITAL

5月16日は、2018年6月20日までに

2巻

デジタルカラー版

ゴールデンカムイ

野田サトル

◎野田サトル2015.2021

初版発行

「みんなデジタル版発行-202」年

2015年

発行所・集英社・

スーパー...ベース・http://www.stuesshara.co.

この作品は、著者カラー原画にカラ、ギャカーの原画をもとに

集英社でデジタル彩色を行った特別編集版です。

本作品の内容あるいはデータを、全部・普段にかかわらず

無断で複製、改竄、公衆送信(インターネット上への掲載

を含む)することは、法律で禁じられています。また、個人

筋肉な使用を目的とする複製であっても、コピーガードなど

の著作権保護技術を解除して行うことはできません。