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神々の山猿
「OVERIESはN/佐藤雄豪
夢枕獏
はーー...
クロジロー
IseN4-08-782786-0
cog79¥1000E
定価「本体1000円十税」
神々の山黄
作夢枕獏
あるジック
作夢枕獏
画谷口ジ円
神々の
かみがみのいただき
真
しかし、今日ジロー
ただ、Congetionestamenter...
夢沈麿
夢枕獏
はー。hotmazon
もうひとつの地インターネット
第31話
第32話
第33話
...
神々
308
287
第28話国ベースキャンプ
第29話【N山の狼】
第30話
...
氷河へ
アイスフォール
軍艦岩
氷壁
第34話(これ)
第35話国灰色のツルム
第36話【N真相
登攀計画
179
かみがみの
かみかのいいただき
そういえば、
うっ
135
特定の第4巻目次
★この作品はフイクションです。実在の人物
団体・事件などには、いっさい、関係ありません
第28話
キャン
...???...?
おかしい
...?
.....
なにか
おかしい
です
ええ
寝台が少し
動いている
みたい
...
...
それから
......どう
して?
棚の上の
ものの場所も
変わっている
わああ
...
!
ああ
...ん
モハン!
ああ...
ニマ!!
えへへ
ああ...
ニマ
カメラ
だよ
旦那
ああ
くくくん
おまえ
どうして
ここへ?
ママ
あのカメラを
もらいに来たって
わけさ
お願い
ニマを
放してっ!!
それ以上
近づくな
殺すぞ!!
どこに隠して
るんだ
あのカメラ
あんたなら
知ってるよな
うう...
パタンの部屋も
家捜ししたけど
出てこな
かった
おれの言う
とおりにしたら
放してやる
それで
はるばるこんな
とこまでやって
きたってわけさ
...
ネパールを
追い出され
たんじゃ
なかった
のか
旦那まで
いるとは
思わなかった
けどな
やなこった
どうせインドへ
行くんなら
あのカメラを
売りに行くさ
イギリス人に
売りつけるんだよ
バカ
言うな!
文無しで
インドなんか行け
るかよ物乞い
でもやれってのか
わかった
それじゃ
話し合おう
じゃないか
子供を放せ
早く
カメラを
よこしな!
フン
話なんか
ねえよ
ああ
くくく~
殺すぞ!
ニマー!
やめろ
モハン!
カメラを
渡せば
放してやる
ああ...
ほっ
どこだ!
ほっ
モオ
...
モオ
メエッ
へへ...
家畜小屋
とはな...
ドゥマ
おれが
掘るよ
気がつか
なかったぜ
だめだ!
女がやるんだ
それか!?
よし
そいつを
ザックに
入れろ!
モハン
そんなことに
買い手が
気づくもんか
おまえ
わかってるのか
犯罪行為の
あったカメラは
表の世界に
出せないんだぞ
フン
知ったことか!
売っちまったら
こっちのもんだ
そこに
置け!
ニマを
子供を
放して!
ああ
そうん
ああ
放して
やるさ
おれが
安全な場所に
行ったらな
ああ.....
じっと
してろ
そこを
動くな
ニマ
!!
ン!
モハー
!
ニマー
く!
いっ!!
ニマーッ
ああーん
ああ...
...
ナラダール・
ラゼンドラ
すまなかった
わたしの
失態
です
モハンを
取り逃がして
しまったの
です
まさか
こういうことまで
するとは思って
いませんでした
できれば
穏便にすませ
たいのです
警察や
役人に介入
してほしくあり
ませんから
...でも?
ええ
おそらく
ビカール・サンも
それを望む
でしょう
そう言っていた
だければわたし
も助かり
ます
今父と
ポカルデ・
ピークへ
出かけています
ところで..
ピカール・サンは?
いよいよ
始めようとして
いるのですな
おととい
発ったばかり
なので当分
戻ってきません
ほう
あの
戦士は...
深町さん
あなたも行くん
ですか?
ビカール・
サンと
ええ
グッド
ラック
......
何であれ
国家も個人も
その意味では
同じなのです
待っていても
誰かがそれを与えてくれる
わけではないのです
欲しいものがあれば
自らの手でそれを
掴み取るしか
ないのですよ
ありがとう
ございました
フカマチ
さん
...
あの
これを
...
これを羽生に
返しておいて
下さい
涼子さんが
そう言って
いたと
いえ
...
わかり
ました
それから
...
ベースキャンプで
待っていると
羽生に伝えて
下さい
山があ
山がある
清い山がある
哀しい山がある
泣きた
>なるような山がある
成層圏の風を
岩が呼吸している
雪が凍てついた大気の中で
時間を噛む
ぽつんと深町がいる
ぽつんと深町がある
ヌプツェの巨大な岩峰が
深町の前にある
その手前のすぐそこが
アイスフォールだ
エヴェレストの頂に積もった雪が水となってここまでたとりつくのに
00年
その時間
その歳月の中に深町はいる
アイスフォールの下
ただひとり深町はそこで
天を呼吸している
11月27日-
ー標高5400メートル
アンツェリンの家を出てから5月
ベースキャンプに着いて4日目である
ただひとり、この高度の清渕な大気を
呼吸していると自然に感情が希薄に
なってゆくような気がする
心の中の猥雑物がひとつずつ目を
重ねるにつれて消えてゆき心も肉体
までもが透明になってゆくようであった
...
日中は陽が出ると30分に1度は
低い地域りとともにヌプツェの名堂に
へばりついている雪の端が崩れ
雪崩が起きる
カンヤ
カシャ
食事は自分で
用意する
ビスケットを5枚、茹でたジャガイモを
数個チーズをひと切れ
雪を解かして湯を沸かし、
砂糖のたっぷり入った
燃い紅茶を淹れる
1日3リットル余りの
水分をそれで摂る
1日にリンゴー個
誓る皮ごと習り
芯まで噛む
シャリ
シャリ
フッ
フッ
フッ
フッ
午前中に一度入念に
ストレッチをやり
身体中の筋肉を指で揉む
午後軽く周囲を歩きもどって
からまたストレッチをやる
ー調子はよかった
これほどの充実感を自分の
肉体に持つことができるとは
考えてもいなかった
アン・ツェリンの家から5日間かけて
じっくり入念に高度を上げて
きたのが効いているのだろう。
はあ
あ...
深町はすでに
覚悟を決めている
いつでも来い、羽生丈二十
どこにいようといずれ羽生は
エヴェレストのこのペースキャンプに
やってくることになる
第29話
◎山の狼
11月27日―
エヴェレストベースキャンプ
深町は羽生を
待っている
日にひと組かふた組が
そこを通りかかるが
いずれもトレッカーたちであった
そして、どんなトレッカーたちも
ペースキャンプよりも眺望の良い
カラ・パタールという丘のビークに登る
さらにどの国の
登山隊もベースキャンプ
にはひと組も入って
いなかった
深町がひとり
本来であればイギリス隊が
入っているはずであった
しかし10月にネバール政府と
問題を起こしている
この1993年の秋
からネパール政府が
登山料の値上げに踏み
切ったことが発端だった
これまで隊員数にカガわらず
1隊3万ドルであった
エヴェレストの登山料が
5万ドルになったのである
隊員も5人までと制限され
隊員を増やせば、さらに1人
1万ドル支払わねばならない
しかも増員数は2名までだ
ひとりあたり1万ドル
日本円で約100万円
秋に入ったイギリス隊は5人で申請
したがー
ーー7人が頂上に立った
しかしイギリス隊はそれを
報告せず金も支払わなかった
その事実が発覚しネバール政府はイギリス
隊を国に帰さなかった事件があった
その後イギリスはネバール
政府に対しヒマラヤ登山
ポイコット運動を展開
それに対してネバール政府は
他のイギリス隊には一度は許可した。
登山を取り消すことになった
この冬ベースキャシプに1隊の登山隊も
入っていないのはそういう理由による
羽生にとってはまさに都合のよい
状況と言えたーーしかし羽生もまた
無許可の入山となる
11月28日ーー正午
...
あれは..
レッカーではない
急がず
ていわいにていねいに
大地を踏みしめながら
あの呼吸あのリスム
肉体が充実しきった
登山家の歩き方だ
羽生丈二
深町の心臓が鳴った
ドゥマが
世話になった
礼を
言っとく
...
あんたがいて
くれて助かった
助けたのは
おれじゃない
ナラダール・
ラゼンドラだ
...
そうか
いい面構えに
なったな
あんたに
やる
...
いいのか?
いい
だけど
これは
...
いいんだ
この
ことが
済んだら
あんたの好きに
するんだな
.....
済んだら
そうだ
〝山〟がだ
......
この山が済んだら
記事にするなり
写真を発表
するなり
あんたの
自由だって
ことだ
...???...
しかし...
それじゃあ
話は
あとだ
アン・ツェリンは
すぐにここから
戻らなけりゃ
ならん
ヤクに喰わせる
草がどこにも
ないんでな
日が暮れる
までに
キャンプを
設営する
...!???
羽生!
おれも
手伝う
ベースキャンプといっても
テントは全部で3張り
8人用の大型テントひとつ
そこに当座の食糧や鍋や
コンロなど日常的に必要と
なるものが入れられる
内部には簡単な
竈も設置された
あとは羽生とアン・ツェリンが
使用する個人用のテントがふたつ
残りの品物は外に積まれ
シートが被せられた
それじゃ
明日
夕刻になる前アン・ツェリンは
ヤクを良いて下りていった
深町は羽生と
ただふたり、そこに
取り残された
羽生はもうどこにもゆかない
どこへも逃げない
ここはそういう場所であった
.....さっきの
ことなんだが
...ファッション
カメラのこと
......訊いても
いいか
ああ
あれを...
どこで見つけ
たんだ
8000メートル
より上だと言って
たけど
どのあたり
だったんだ?
...
ネパール側
か?
チベット側か?
ズッ
チベット側だ
北東稜の
8100メートル
地点だよ
!
...北東稜!!!
やはり
マロリーの
1924年
マロリーのエヴェレスト
頂上アタックルートが
この北東稜である
去年の
ことだ
おれは
チベット側から
エヴェレストの
冬期無酸素の
トレーニングのために
登ったんだ
フフフランス
ナムチェバザール
から北へ向かい
この時
おれは密入国
したことになる
ナンバ・ラから
チベットへ抜けて
検問を通らずに
そこから
エヴェレストに
入った
アン・ツェリン
には
5700メートル
のところまで
同行してもらった
そこに
前線基地を
置いて
北東稜の
古典ルートを
登った
フッ
無酸素
登琴は
迅速な行動が
必要となる
フッ
8000メートル
を越えると
そこはもう
人間の生きられる
場所じゃない
とくに
エヴェレスト
ではな
1日目は
7028
メートルの
ノースコルまで
登った
次の日は
高度を
8200メートル
までかせいた
3日目
頂上まで一気に
登る予定だった
のだが...
調子は
悪くなかった
稜線下の
窪地に雪が
積もって
歩きにくいのか
わかった
やむなく右へ
トラバースして
ノートン
クーロアールに
入った
そこは
それほど切り
立った岩場
ではないか
かなり
危険な
ところだった
その
クーロアールを
越え
ハア
平坦な
雪面に
でる
すぐそこに
頂上の見える
稜線を進む
ハァ
その最後の
数メートルはほとんど
身体をひきずるように
して登っていった
ハア
ハア
ハア
それは
...
ハア
ハア
ハァ
頂上では
しばらく
動けなかった
無限に続く
苦しみのように
思われた
いままで
経験したこと
のないほどの
疲労感に
襲われる
ハ...
自分の肉体が
限界に達して
いることが
わかった
ハ...
なにもかも
忘れた...
フーー
フ
フッ
もう
下山する
気力さえ
萎えそうになる
フ
なにも
考えられなく
なる...
フー
しかし...
ここで終わる
わけにはいかない
それは...
たぶん怒りの
ようなものだ
その気持ちが
ようやくおれを
動かした...
それから
すぐに下山を
ちょうのお
...
ところが
ハア
吹雪で
視界が
悪くなる
頂上からの
下降中天候の
急変に遭った
ほとんど
数メートル先が
見えなくなる
ハア
ハア
ハア
ハァ
このまま
下降を
つづけると
ロンブク氷河
まで消落して
しまうおそれが
あると思った
おそらく
スノーテラスの下
8100メートル
あたりまで下って
きたと考えられた
この時
ハァ
ハア
ハア
どこかの岩陰で
ビヴァークする
つもりだった
ハァ
もうおれは
その場に座り込んで
しまいたいくらい
体力が消耗して
いたんだ
すると
その時
...
視界を越えた
先の方から
真っ白な断片が
目にとびこんで
きたんだ
それが
いったい何で
あるのか
わからなかった
ハア
わけもわからず
その白いものの
ある方向へ
歩いていった
ハァ
ハア
それは
...
ハア
ハァ
雪よりも
白く輝いて
見えた
ところが
その白いものの
断片は.....
雪と岩屑に
埋もれた
クライマーの遺体
であることが
わかった
しかも
その道体は
がなり古いものの
ように思えた
そして
なによりも
仰天したのは
からみついた
ス然繊維の
ロープ
幾重にも
かさなる
ボロボロに
なった衣服
鋲が打ち
込まれた
登山靴を見た
時だった
...
この男は
マロリーだ
なんの
疑いもなく
そう思った
...
おれには
そうとしか
考えられ
なかった
その肌は
色が抜けて
真っ白だった
それは
まるで
まるで
眠るような
姿で横たわって
いた
この男は
...
75年という
年月...
風雪の中
ずっと
この山に
しがみついて
いたんだ
おれは
.....
......
その道体の
そばで
ビヴァーク
したんだ
ズズゥ
その道体が
アーヴィンである
可能性については
考えなかったのか
...
考えられ
なかったよ
おれには
あれは
マロリーだ
道体のそばで
ザックを見つ
けた
その中に
あのカメラが
あったんだ
......
あの時も
無意識だった
.....
おれは
無意識の
うちにカメラを
持ち帰っていたんだ
フィルムは?
中に入って
いたんじゃなかっ
たのか?
なかった
...
フィルムは
カメラの中には
なかった
どうして?
それじゃ
アーヴィンか
マロリー
か
どっちかが
持っているん
じゃないのか?
知らんね
カメラの
入っていた
ザックの
中にもなかった
ように思う
フフラックス
たぶん
写真を撮り
終わってカメラの
中から抜きとっ
たんだろう
深町はふいに肩から力が
抜けたような気がした
しかし
このカメラの
発見だけでも
山岳史に大きな
足跡を残す
ことになる
パスポートも
入山許可もなしに
チョモランマの
頂上に立って
その帰りに
これを見つけました
とでも言うのか
どう
説明する?
...
言ったら
おれは日本に
強制送還だ
海外に
しばらく出られ
なくなるだけ
じゃない
ヒマラヤの
入山許可も
下りなくなる
これが
終わるまでは
だめだ!
これが
済むまでは
.....
いいのか?
このあと
カメラのことを
おれが記事にして
しまっても
ああ
好きにするさ
これが
終わればな
ないよ
ズズ
羽生丈二の
名前が出る
ことになる
どちらでも
いいんだよもう
そんなこと
はね
それでも..
カメラのことを
伏せておけば
いくらでも
チャンスはある
どうして?
どうして
そんなことが
わかる!?
おれはね
...
1980年から
足かけ
8年間もここで
エヴェレストを
ねらってきたんだ
ほんとうに
ひとりでね
スポンサーも
なしだ
もう...
何度も
失敗したよ
たとえ
スポンサーがついて
いたって、酸素を
どれだけ使ったって
何人の人間と一緒に
やろうが
そう簡単に
落とせるもん
じゃないんだ
エヴェレストの
南西壁はね
それも
酸素なしで
やる
...
それができるのは
一生に一度が二度だ
あらゆる可能性
あらゆる準備
自分の人生の目標を
それのみに定め
他の全てを犠牲にして
そのことだけに生きる数年間
なしには、それを成し遂げることは
できないだろう
技術・体力・山での経験は
言うまでもない
高度順応・体調も万全
であること
さらに
エヴェレスト付近の
地理・天候に熟知ー
そして最後には人間の手から
離れた力がその人間に味方
してくれるかどうかである
それらの要素が全て欠けることなしに
あって初めて登頂の可能性が
見えてくる
それが冬期エヴェレスト南西壁
無酸素単独登頂である
チリ
チリチリ
...?
マロリーは
知らんね
オデルが
マロリーは
頂上を踏んだと
思うか?
おれは
マロリーと
アーヴィンを
最後に見た時
...
ふたりは
第2ステップ
8600メートル
地点にいたと
言っている
あんたが
見たという
マロリーの道体が
あったのが
8100メートル
だとすると
つまり
マロリーは
そこまで
下ってきた
ことになる
第2ステップを
越えてしまえば
頂上は近い
その先に
特別の難所が
あるわけ
じゃない
マロリーと
アーヴィンは
頂上を踏んで
その帰りに
アーヴィンが
8380メートル
地点で事故に遭い
そこにビッケル
だけが残った
その後
マロリーは単独で
第6キャンプまで
下ろうとして
途中で
力尽きた
マロリーの屍体は
第6キャンプより
下にあったが
日が沈み
暗闇のため
道に迷った
そう
考えられるん
じゃないか
ズズー
もしマロリーが
第2ステップから
引き返して
いたら
まだ
明るいうちに
8150メートルの
第6キャンプ
まで
充分戻って
こられる時間は
あったと思う
戻ってこられ
なかったと
いうことは
頂上に向かった
という可能性が
でてくる
8600メートル
から頂上へ向かった
人間の屍体が
8100メートル地点に
ビヴァーク状態で
あったというなら
...だから
どうだと
言うんだ
...
それは
頂上を踏んでから
じゃないのか?
おれは
知らんね
帰ってこなかった
奴が頂上を踏んだか
どうかなんてそれは
どうでもいいことだ
考えたって
どうせわかる
ことじゃない
頂上を踏んだ
という説が百
思いつけるなら
踏まなかったと
いう説だって百
思いつけるって
ことだ
......山屋は
山に登るから
山屋なんだ
死ぬために
登るんじゃない
死んだら
...
ゴミだ
...
ふふっ
ガチ
ガチ
ガチ
ガチ
ぐぅ...
ガチ
ガチ
ガチ
ぐ...!!
くそ...
くそっ
くそっ
ふっ
ふっ
ふっ
ふっ
ちきしょう...
ふっ
ふっ
ふう
ふっ
ふっ
ふっ
ふう
ふう
はぁ
みっともない
ところを
見せたな
......
あの羽生が
怖くて震えて
いたと
日本で
言っていいぜ
トの遥か上空で
風がうねっている
この瞬間にも
書い微光を放つ巨大なヒントゥーの
神々がしずしずと天より降り立ち
成層圏の気流を呼吸しながら
舞っているのかもしれない
おそらく羽生丈二がこれからやろうとしていることは
彼らヒンドゥーの神々の棲む領域に属することなのだ
地上から神々の世界へ足を
踏み入れることなのだ
ムシャ
ムシャ
モグモグ
ハフ
その夜の食事はインスタント
カレー真空バックの漬物
ムシャ
ムシャ
深町は2杯羽生が3杯
の量を食べた
さらにトマトひとつ
リンゴひとつを齧る
ザク
シャリ
シャリ
シャリ
シャリ
食後また
熱い紅茶を淹れて
水分はどんなに摂っても
摂りすぎるということはない
大気が薄いため体内の水分が
どんどん奪われてゆくからだ。
フウ
フウ
ズズ
一日に摂取すべき水の量は
基本的にひとりあたり
4リットルをベースとする
温度60度の紅茶に蜂蜜を
たっぷりと入れる
ズズー
深い沈黙のなか、深町は決意を
言い出しかねていた「
〝この自分がカメラを持って
同行することを許してくれと
〝あんたの登頂する姿を
見届けさせてくれた
深町は羽生が鬼スラを
やろうとした時
井上に言った言葉を
思い出していた
おまえ
なんのために
生きているんだ!?
人が生きるのは
長く生きる
ためでは
ないぞ
じゃあ
おまえは何の
ために生きて
いるんだ?
山だ!!
ハイアッ!!
山って
何だ!?
山は山だ
山なんだ!!
山に登る
ことだ!!
だったら
安全に
登ればいい
安全のために
山に登るんじゃ
ない!
いいか
井上
死は
結果だ!!
生きた時間が
長いか短いか
それはただの
結果だ
死ぬだとか
生きるだとか
そういう結果の
ために山に
行くんじゃない!!
おまえの
言うことは
わからん
わかれ!
わかって
くれ!!
わからん!
山で死んで
おまえは
幸福か!?
いいか
不幸か幸福が
だったなども
ただの結果だ!!
そういう
結果を求めて
山に登って
いるんじゃない!!
生きた
あげくの
ただの結果だ
幸福も
不幸も
関係ない!!
おれはどう
生きたらいい
のかなんて
まるでわから
ないがな
おれは
ゴミだよ
ゴミ以下の
人間だ
山をやっていな
けりゃな
山屋である
羽生丈二の
ことなら
わかる!
なにが?
なにかわかる!?
いいか
山屋は山に
登るから
山屋なんだ
だから山屋の
羽生丈二は
山に登るんだ!!
女がいたって
逃げたって
山に登っていれば
おれは山屋の
羽生丈二だ
何があったって
いい!!
幸福な時にも
山に登る
不幸な時だって
山に登る!!
山に登らない
羽生丈二は
ただのゴミだ
あの時―わけのわから
ない羽生の熱気のような
ものに押されて井上は
鬼スラをやる決心をした
あの時の同じ炎が
男の内部でまだ頬のように
ぶすぶすと燻りつづけて
いるのだ
それを抱えて羽生は
今ここにいる
おい...
パキッ
バチ
ん...
おまえ...
何しに
来たんだ
バチ
...
それは
ズズー
ああ...
そう
そうだが
...
写真を
撮りに
きたのか
あの
カメラの
フィルムが
気になって
いたんだろう?
あ...
いや...
お...
おれは
いいぜ
ズズー
あんたの
勝手に
するがいい
フラックス?
写真を撮り
たければ勝手に
撮ればいい
いいのか
いいさ
あんたが
おれを止めに
来たんじゃ
ないんならね
おれはおれで
自由にやる
それをカメラで
勝手に撮りたいって
いうんならそれは
その人間の自由って
もんだろ
あんたが死にそうに
なったっておれが
氷の壁にザイルで
ぷらさがることに
なったって
お互いに
干渉しない
かわりに
このペースキャンプを
出たら一切関わり
なしだ
それが約束
できるんなら
ここで何をしようが
誰も何も言わないよ
いいかい
わかった
約束
する
...
やっている
あんたも
山をやって
いるんだろ
山は
好きか
さあ...どう
だろう
あんたは?
おれか
...
...
...まだ
わからない
フラフラスラ
それで
どうなんだ
あんたは
何故
山に登る?
うん
正直..
よく
わからないな
あの
マロリーは
この歳になっても
わからないよ
本当の
ところはね
そこに山が
あるからだと
そう言ったらしい
けどね
違うね
......
違う?
...
違うよ
少なくとも
俺は違うね
そこに山が
あったから
じゃない
ここに
おれがいる
からだ
おれには
これしか
なかった...
なにかをして
いないと自分が
壊れてしまい
そうだった
これしか
ないから
山をやって
いるんだ
だから
がむしゃらに
山に登った
あれは...
麻薬だな
そうだ
一度山で
岩の壁に
張りついたら
そこであれを
味わったら
...
麻薬?
日常なんて
ぬるま湯みたい
なもんだ
...
......おれを
撮れ
おれが
逃げ出さない
ようにな...
第30話
登攀計画
11月29日-
いいでしょう
羽生は念入りに薬術の点検をする
さん
しいご
ろく
これはどれだけやっても
やりすぎるということはない
よし!
間題ない
それも
持っていく
のか?
ああ
もちろん
持っていく
ほら
見てみろ
軽い...
持っていくものは
できるだけ
軽い方がいい
いらない
ページは破り
捨てた
これは
...
これもだ
考えてみれば
これもいらない
重さだ
5センチ
ほどだが
短くした
ビリッ
ビリ
ビリ
これで
全部だ
見せて
もらえるか
その
チェック
リスト
細かい
...
これで...
荷の重量
が...!
約4部1・5
キログラムが
...
「インコーンの本の方や
からから
迷惑
くーくん.
いやだなあ
「それに頼むん」との
「大きな人への
今回は6年以上のBV
100/3かヤログリチャさんを
重量まで
メモしてある
あと
羽生が身に
つけるものが
ピッケル
アイス
バイル
そして下着は極楽の冬山では生死を
分ける重要なポイントとなる
ウールの下着と森の下蒼は同じ
厚さであれば保温かには違いはない
10キロ
アイゼン
しかし綿は吸湿性はあるが濡れると、
保湿力が意速に落ちるウールは
汗を吸いそれを体温で気化させて
外へ放出する性質を持っている
羽生の着るゼロボイント
下着は化学繊維であり、
冬山で遭難した者のうちウールの
下着をつけていたものだけが、
助かった例はいくつもある
ウールの持っている性質を
さらに高めたものである
食料はほとんどが液状にして
口にするか、菓子状のものである
8000メートルを超えると
人間は固形物をほとんど
喰えなくなる
それで蜂蜜やスープが
食料のベースとなる
しかしーどんなに荷を
軽くしても最終的に
裸の状態よりは25キロ
近く重い荷物を持って
動くことになる
できるだけ荷を軽くする。
それほど徹底した準備があって
はじめて登録中の心の迷いを
ぬぐい去ってくれるのである
やるだけはやったんという確信が
あれば余計な思考をせずに、
登録に集中てきることになる
これは?
ふさんと〜〜
この替えの
靴下
かえって
荷物になるん
じゃないか
いいや
1日助けは
靴下は汗で
濡れる
その濡れが
凍傷の原因に
なるからな
高所では体力が
低下して自分の
体温で足を温める
ことは
できない
濡れた場所が
凍りつく
凍傷の足では
氷壁の微妙な
バランスが
とれなくなる
多少重くとも
足のためには
替えの靴下を
持っていった方が
いい
...
重量が
問題となるのは
8000メートル
より上だ
その時は
穿いている
もの以外は
捨てている
それで..
あと日程の
ことだが..
どういうやり方で
エヴェレストを
やるのか
知りたい
...
3泊4日
まさか
できるのか?
3泊4日で
できる
3泊4日
だから
できるんだよ
エヴェレストの南西壁は長い間人間の登欒を
拒みつづけてきたーーそここには長い歴史がある
最初が1969年の日本山岳会による偵察であった
それを含め1992年のウクライナ国際隊まで23隊の
偵察・アタックを南西壁は受けている
―つまり死亡している
登頂隊員4名全員が未帰還ー
この登頂に成功したのは?隊のみである。それぞれボスト
モンスーン期の登頂である。この3隊のうち1隊は隊員
1名がどうにか頂上を踏んだものの他のアタック隊員と
合流した後、行方がわからなくなっている
登頂した後ーー登頂隊員が無事生還した
のは1975年のイギリス隊のみである
1992年までに「偵察の
2隊を別にすれば21隊が
南西壁に挑戦しイギリスの
1隊をのぞいてその
ことごとくが敗退している
近年登山用員は次々に改良され
技術も進歩してきているというのに
ここまで頭なに愛頂を拒みつづけ
ている壁は他にはない
れを羽生は
冬期にしかも単独
無酸素でどうやって
登ろうというのか
おれは
死ぬほど
考えたよ
1985年に
失敗してから
毎日毎日
南西壁のこと
ばかり考えつづ
けてきたんだ
ゴリ
ゴリ
ゴリ
ゴリ
1日だって
南西壁のことを
忘れたことは
なかった
ゴリ
南西壁のこと
ならどんな小さな
壁だってわかる
どこにどういう
ふうに壁があって
どうハングして
いるか
みんな
わかっている
眼をつぶったって
アイスフォールの
中を歩けるよ
どの
クレバスを
どうかわせば
いいか
ダブルアックスで
どの氷にどう
ピッケルを打ち
込めばいいか
どの足で
アイスフォールに
入り込んで
どの足で
出てくるか
みんな
わかっている
アイスフォールを
越えたら
ウェスタン
クームの中で
中央にルートを
とって
次にヌブツェ
寄りにルートを
変える
ベルグシュルントの
幅も頭の中に
ある
そこから斜度が
40度の氷の斜面
になる
その斜面を
軍艦岩に
着いたら
ここから
斜度が45度
になる
それを
ダブルアックス
でゆく...
左へ氷の
斜面を25メートル
トラバースだ
今、自分の言葉通りの
映像の中を自分自身が
歩いてゆく光景がはっきり
羽生の脳裏に刻みこまれ
ているに違いない
おれはもう
誰とも
パートナーを
組まない
単独で
やる
失敗しようがうまく
ゆこうが全部
おれの責任だ
頂上に立つのも
独りだ
断念するのも
敗退するのも
おれ独りだ
死ぬ時も
.....
独りだ
...
さっき
.....
ああ
言ったよ
3泊4日
だからできる
と言ったが
あれは
どういう
恋味なんだ?
1975年の
イギリス隊は
33日もかかって
いる
あの時は
ポストモンスーン期
だったがそれが
これまでの最短
時間じゃないのか?
いや
長すぎる
冬の南西壁は
もっと短い時間で
いいんだ
単独行ならばな
イギリス隊が
あれだけ時間を
かけたのは安全の
ためなんだ
しかも
隊員23人の
大隊だ
フィックスロープを
8キロメートル
ガスポンベ800本
酸素ボンベ70本
食料1トン
梯子を20脚だの
テント30だの
考えられない
ほどの量の
荷をあげる
その他諸々の
ものをベースキャンプ
まで運びさらに
上のキャンプまで
あげる
そして安全の
ためのルート工作
固定ローブ張り
33日の
ほとんどの時間が
その為に費や
されている
しかし
ひとりならば
33日はいらない
...それに
しても
3泊4日と
いうのは...
いや
できるんだ
この8年
おれが考えぬいた
結論だ
考えただけ
じゃない、実際に
何度も南西壁に
取りついて出した
結論だ
...
南西壁を
やるには速攻
しかない!
3泊4日は
不可能じゃない
おい
どうした
震えてるせ
...
深町は自分の身体が小刻みに
震えているのに初めて気がついた
いいか泳町
よく聞いて
おけ
ウェスタンクームの
6500メートル
地点まで
4時間でゆく
そこで
1泊
早朝ベース
キャンプを出て
2時間半で
アイスフォールを
抜ける
翌日の
早朝に
出発する
...
次の日ベルグ
シュルントを
渡り
軍艦岩を
抜けて
2泊目はこの
灰色のツルムの
下ですごし
7600メートルの
灰色の岩峰まで
これに8時間
8時間で
クーロワールを通り、
ロックバンドを越え
そこで1泊
ここが
おれの最終
キャンプになる
翌日の朝
そこにテントを
残して8時間で
頂上に飛く
そして
3時間で
テントまで
戻ってくる
しかし
いいか
最初の日に
軍艦岩まで
だって行けるんだ
少しペースを
早くして
1時間余計に
歩くつもりならな
それで
3泊4日だ
フラフラスラ
だが
おれは
行かない
何故だか
わかるか?
...どういう
意味だ
標高の高い
場所での滞在を
できるだけ短く
するためだ
その日に
軍艦岩まで
行って泊まっても
それは...
2日目には
どうせ灰色の
ツルムでする
ことになる
日程に変化
はない
それなら
軍艦岩の
6900メートルより
ウェスタンクームの
G500メートルの
1泊の方がいい
知ってるか
人間はどんなに
がんばっても高度
順応しきれない
高さかある
それか丁度
G500メートル
あたりにあるんだ
その高度を越え
ちまうとどれだけ
順応がうまくいって
いようと何もしないで
眠っているだけでも
疲労してゆくんだ
だから
6500
メートルだ
そこで1泊すれば
ほとんど疲労なしで
2日目に入る
ことができる
しかし
ポイントは
天候だ...
もっと
具体的に
言うなら風だ
...
場合によったら
登録中に天候
待ちすることになる
4日分の食料を
余分に持ってゆく
このエヴェレスト
一帯には12月の
クリスマスの時期に
なるとそれまで
以上の強い風になる
だから
12月15日が
ひとつの
目安だ
登録中に
天候待ちする
ことを考えると...
...
12月10日までに
ベースキャンプを
出発しなければ
ならない
ふふっ
低い地鳴りとどもに
ヌプツェの雪崩の震動が
深町の震える身体に
伝わってきた
第31話
◎氷河〈
11月30日ーーアン・ツェリンが
下から上がってきた
アン・
ツェリン
ビカール・サンの
写真を撮ることに
なったんだよ
ほう
ナマステ
フカマチ
単独行の
邪魔は
しない
わかってる
ビカール・サンに
どこまで尾いて
ゆけるかわから
ないが
行けるところ
まで届いてゆく
つもりだ
それでいい
誰であろうと
自分の人生を
生きる権利
がある
いよいよ
明日からだな
少し...
気温が
上がってきている
まだ
空の上は
...
風からし
昼食後
3人でプジャを行なった
石を積み重ね祭壇をつくり、
棒を立て、そこに四方の地面から
祈祷旗をつけた縄を張る
五色の旗が風に
はためく
冗談だな!?何よ!
ほら...その間で
みなさんのお
それほど『あの
香が拭かれ、清涼な冷たい
天気の中に社松の匂いが流れた
アン:ツェリンの静かな
読経が流れる
これを
ツァンバーチベット人や
シェルバが主食にしている
変こがしである
それをひとつかみ
その粉を天に向かって
投げあげる
こうして登山の安全を願う
シェルパ族の儀式を終えた
12月1日―この日から
冬期の登山を開始しても
よいことになっている
朝ーーー気温
マイナス17度
昨日より3度高い
...
どうなんだ?
駄目だ
3日は
だめだな
...
......
温度が上がって
ああいう雲が
上にでると
天気が
崩れる
あと3日は
動けない
12月2日―
マイナス20度
天気は崩れたヌプツェの頂に雲がかかり
7600メートルがら上は見えなかった
激しい勢いで
雲がチベット側へ
流れていく
時おり雲が割れて
驚くほど清浄な
青い空が覗く
その割れ目から目が降りそそぎ
永河の上を光の輪が疾ってゆく
それはエヴェレストの西稜を駆け
登って尾根から天へ消えてゆく
その光を地上から見ると天へ
疾り抜けたように見えてしまう
羽生は嶽黙になった
12月3日
気温マイナス22度
曇り風強し
12月4日
気温マイナス20度
午前日晴れるも
午後また曇り
風強し
12月5日
気温マイナスが度
曇り風強し
12月6日
気温マイナスが度
雪
...この
時期に
雪が降る
のか...
ん?
視界は100メートル
その朝ーいつもの場所、いっもの
岩の上で、羽生は雪が降りてくる。
天空を睨みつけていた
ベースキャンプから
数百メートル上空を
超えたあたりには強い
風が吹き荒れている
唸るようにして風が
天を疾り抜けてゆく
もしかしたら
12月の後半にやってくるはずの
プリザードがもうこの時期に
来てしまったのだろうが
12月7日――午前7時
マイナス19度
雪風強し
羽生は口を
利かない
その後も雪と風は
3日間つづいた
12月11日
気温マイナス22度
晴れー
ハッ
ハッ
晴れたな
羽生!
ああ...
どうする?
今日
出発する
のか?
いいや
明日の
天気は?
晴れるさ
そうか
温度も
下がっている
いい傾向だな
今日1日
雪が落ちつく
のを待つ
いや
エヴェレストは
温度よりも気を
つけなければなら
ないことがある
冬の南西壁の
最大の敵は
寒さじゃない
風だ
明日だな
ビカール・サン
明日
おまえはここを
出発して
そして知る
ことになる
明日は
出発できる
フラフラスラ
なにをだ
......?
ああ
自分が
天から愛され
ている人間が
どうかだ
...
天か...
おまえは
...
それを天に問う
ことができる資格を
もった人間は少ない
それを
天に問うために
あそこにゆかねば
ならない
ビカール・サン
おまえなら
その資格が
ある!
1993年12月12日
気温マイナス22度!快晴
午前7時
ベースキャンプ出発
深町は非生の出発の
写真を撮る
羽生にわずか遅れて
深町も歩き出す
いきなりルート工作のされていない
アイスフォールに入る
フッ
フッ
しかし、深町にとっては今回の
アイスフォールは半分ルート工作が
できているも同じであった
ハア
ハア
先行する羽生の歩いた跡を
そのまま追う
一定のベースでアイスフォールの
内部を蝶のように進んでゆく
このアイスフォールでは、これまで
多くの事故が起きている「基本的に
どこが安全という場所はない
いつどこが崩れても不思議
ではない場所なのだ
登山者にできることは
ただひとつー
できるだけアイスフォールの
内部にいる時間を短くする
ということのみである
羽生は休まない
ハァ
ハア
少しずつ羽生との
間隔があいてゆく
そして、羽生の姿が氷塊を
まわり込み見えなくなった
ハァ
ハア
深町は慎重に羽生の
踏み跡を追う
ハア
氷塊をまわり込むと
氷屋の袋小路になっていた
羽生の踏み跡はそのまま正面の
氷崖を登っていたー
第32話
フォール
...
...
...
フゥ
フゥ
フゥ
連続した動きはさすがにきつかった
この通勤量を維持するための酸素を
一度の呼吸だけでは摂取できない
ハッ
ハッ
ハッ
呼吸が速くなっている
絶え間なく喉が鳴っている。
ゼヒ
ゼヒ
ハフ
ハフ
ハフ
まだだまだ体力はある
まだ自分はがんばれる
その想いを奥歯で噛み
しめながら登ってゆく
ハア
ハア
ハア
ハア
ハア
登り切って氷崖の
上部へ出る
しかしその先も氷塊が
延々とつづくアイスフォール
羽生の姿はどこにも見えない
ただそこには羽生の踏み跡
だけが残されていた
ハア
ハァ
アイスフォールに
入ってから
1時間30分
羽生の
予定では
予定
どおりなら
8時45分
このアイス
フォールを2時間
30分で抜ける
ことになっている
ふう
あと1時間で羽生は
アイスフォールの
上部に出るはずだ
いったい自分が羽生にとれだけ遅れて
いるのか深町にはわからなかった
ハア
もし...今ここで雪が降り
霧にでもまかれたら
自分はアイスフォールの中
たったひとり方向を見失って
しまうだろう
ハア
フッ
フッ
そんな女性にかられて思わずベースを
あげそうになるのをこらえた
焦ってペースを速めるわけには
いかない自滅するからだ
ハッ
ハッ
ぜひ
ぜひ
ごほっ
乾いた咳が出る
ごほ
ごほ
大気が乾燥して冷たい
どこまで歩いても、羽生の姿は
氷塊群に消えたまま見えない
ごほっ
深町は、ふいにひとり荒野に
残された不安感におそわれる
おそらくむこうからも
こちらは見えないだろう
...どうなって
るんだ
羽生の
足跡は
助走して
......
羽生は
ジャンプしたのか
このクレバス
このクレバスを
迂回すると
なると...
ここで
踏んでいる
やはり..
跳ぶしか
ないんだ
かなりの
時間をロスする
ことになる
ドッキン
ドッキン
ハフゥ
ドッキン
ハア
ふぅ
ハア
や..
やったぞ
そして
さらに深町の目前に巨大な氷壁が
出現し行手をはばむ
.....ほぼ
垂直だ
...30メートルは
あるだろう
.....
羽生は
この壁を
直登している
その氷壁で要求される登録技術は
一般的なものである
ところが今はなんの確保も
なく氷壁に張りついている
この高さなら?―落ちれば死ぬ
その精神的プレッシャーは大きい
しかしここではアイス
ハーケンでいちいち安全を
確保していたなら
フゥ
フッ
とても羽生のスピードには
ついてゆけない
そしてバランスを崩さぬよう
高度を上げてゆく
深町はアイゼンの前爪を
確実に氷壁に打ち込む
問題は酸素が薄い
高所では
体力の低下や
集中力がおちる
ことである
ハア
ハア
しかしまだ登録は始まった
ばかりだ-ここで泣きこと
など言えはしない
ハア
ハア
上だけを見て登る
両足の膝が細かく震えている。
一度恐怖が身に張りつくと
それはすぐには離れない
ふぅ
下を見るな
その時ー
あと...
5メートル
ほどだ
それはヌブツェの岩稜から
発生した雪崩だった
...
こっ
雪崩だ!!
近づいて
くる...
どういう避難体勢も
とることができない
ここまで
くるか...
肛門がきゅっとすぼまり
背の筋肉が縮む
ギリ
ギリ
激しく歯を噛みしめて
深町は天を睨んだ
青い
雪崩はウェスタンクームの
氷河にぶつかり
そしてアイスフォールの
氷塊の凹凸が雪崩の
本体を止めた
向きをかえて
アイスフォールへ
しかし蝶風はそのまま
氷河の上をすべってゆく
その爆風で巻き起こされた
雪煙はアイスフォールを
抜り抜け
それはキラキラと光る
氷の結晶や雪の
細片だった
深町が張りついていた
雪の裂け目に雪煙の
粒子を注いでいった
う.....
はふっ
ぷはぁ
...
はふ
はふっ
はぁ
はぁ
羽生は?
...?
助かった
羽生は
大丈夫か!?
そして深町は再び
登録を開始した
あと3メートル
はぁ
深町は歯を噛んでビッケルを
氷壁へ打ち込んだ
はぁ
アイスフォール帯を抜ける
氷壁を楽し登り
もう足の震えは止まっていた
標高およそ6000メートル
ウェスタンタームの入口に到達する
10時50分
ここまで
3時間半
ってとこが
ま...!
悪くはない
ペースだ
深町は5月遠征時、ここに
第1キャンプを設営した
そのおり3時間かかって
ベースキャンプからここまで
たどりついている
あの時はルートはきちんとできて
おり、ユマールや様子を利用した
今回よりもずっと短い距離を
歩いての3時間であった
今回は前回よりも長い
距離を動いている
にもかかわらず30分
オーバーしただけだ
体力的には前回より
今の方が上まわっている
この羽生の踏み跡が
なかったらもっと
時間はかかって
いただろう
どうやら
体力もまだ
あの時よりも
ゆとりがある
羽生はあの
雪崩を無事
回避できた
らしい...
しかし羽生の姿は
そこから見えなかった
いったい羽生はどれだけ
先行しているのだろう
深町は雪の上に刻まれた
羽生の足跡を撮る。
深町は羽生の踏み跡を追って
再び歩きはじめた
巨大なクレバスが幾筋も左右に走る
広大な雪原
ワェスタンクーム
その広大な風景の中にあって
深町は強く自分の存在を意識していた
自分の存在が点として
意識の中に鳥瞰された
ハア
フッ
フッ
フッ
フッ
巨大なクレバスに出会う
たび右か左に迂回する
いつ自分の足元が崩れ落ちる
かも知れないという不安が
常につきまとう
ゴホッ
ゴホ
咳が出る
ハア
ゴホ
ゴホ
終え間がない
呼吸が速くなり足を踏みだす
速度がきらにゆっくりとなる
フゥ
羽生の踏み跡は右側ー
ヌプツェ寄りにつづいていた
フゥ
フゥ
それからおよそ
1時間半
ハア
ハア
深町はそこにこの地球上で最も高い
場所にある岩壁ーーエヴェレスト
南西壁の全貌を見た
それはまさしく圧倒的な
光景であった
ハア
ハア
ハァ
標高6500メートル
午後4時40分
そこに羽生のフルーの
テントが見えた
羽生
深町は声をかけなかった。
自分が到着したことは気づいている
詳しかけても、おそらくお生は
返事をしないだろう
ゴホッ
ゴホッ
頭が痛い
食欲がない
はふぅ
深町は羽生から
10メートルほど
離れたところに
テントを張る
軽い高山病の兆候がある
休んだ時間を入れてベースキャンプ
からここまで9時間かかった
1日で
1100メートル
高度をあげて
しまった
ことになる
1日であげてもよい
高度は1000
メートルたか
...初めて
の経験だ
これまでに..
5800メートル
くらいの順応は
すませてあるが
ここは
それよりも
700メートル上だ
なんとか限界
ギリギリの
ところだな
ズズウ
ふぅ
眠る時は
500メートル
下らなければならない
......羽生
おれは
ここにいるぞ
ハフ
ハフ
夕食は一度炊いてから乾燥させた
飯を茹でもどし魂にして食べた
ウメボシ・海苔の佃煮
そしてピタミンCとBの
錠剤を呑んだ
ガリ
フゥ
フゥ
チーズを少し齧り
パウダーを湯でといた
コーンスープを飲む
さらに蜂蜜をたっぷり入れて
紅茶を1.5リットル
時間をかけて飲む
水分は補給しすぎと
いうことはない
ズズー
午後6時
シューッ
ガガガ
ビカール・サン
聞こえるか
予定
どおりだ
こちら
ベースキャンプ
調子は
どうだ?
天候の
状況は?
シューッ
深町は定時の
交信を聴いた
ガカ
晴れている
今風が
止んだ
それは良い
幸運の続く
ことを祈っている
では
明朝6時
交信する
了解
フフフラスをフランスです
ブツン
なんだが
羽生の声が
力強く
じじられる
調子は良さ
そうだ...
すごい男だ
深町は無線を持って
いるがその交信には
参加しなかった
そういう約束に
なっている
ペースキャンプの無線は常に
オープンになっている
深町がそこへ連絡するのは、
自分の生命にかかわるトラブルが
発生した時のみーーそういう
約束を出発時にしていた
本来てあればここは
絶え間なく風が吹く。
不思議なくらい
静かなおだやかな
晩であった
しかし今風かない
周囲に遮るものがない
吹ききらしのウェスタンクーム
大気がしんしんと冷え込ん
できているのがわかる
みりみりと空気中で
音がしているほどだ
おそらくマイナス2J度か
28度になっている
だろう
呼吸する酸素が少ない
ためもっと寒い
ように感じられる
...
眠れない
...
呼吸も
苦しい
フッ
フーー
フーー
フッ
やはり...
アン・ツェリンの
いうように酸素
ポンベを持って
くるべきだった
のか
しかし酸素ボンベを背負って
ここまでたどりつけただろうか
フー
フー
いや
もうやめよう
考えまい
自分は酸水
ポンベを持って
こなかった
それが
事実だ
耳鳴りが
する...
羽生はもう
眠ってしまった
だろうか...
―そう
眠らなければー
考えるほど意識が冴え
渡ってくる
風の音が
聞こえない
頭に浮かんでくるのは自分の
内部に棲む生き物ーーさまざま
な思考が交錯する
いったい自分は
なぜここに
いるのか
こんな思いまでして
自分は何にこだわって
いるのだろう
羽生
羽生よ
おまえは何故
こんな場所にある
何故こんな場所で
たった独りに
耐えているのだ
何故山に登る
おまえの答えが
あの頂にあるのか
南西壁を登りつめ
その果てに
あそこでおまえを
何が待っているのか
羽生よ
何も待って
いないんだろう
おまえ
この南西壁を
やっつけてしまって
そして、そのあとは
その頂から
どこへゆく
登ってしまった
そのあとは
はっきり
羽生よ
羽生よ
おまえは
どこへゆく
......独り
ばっちだ
いや...いるか
羽生のやつが
すぐ近くにいる
でも羽生も
おれも独りだ
独りぽっちだ
ああ......山が
だろう。
雪の上を頂い向かって
歩いている
あれは...?おれか
いやおれじゃない
おれは頂上にゆく
そいつを見ているのだ
おいどこへゆく
そこに立ったら
その先はもうないぞ
おいそんなに
急ぐんじゃない
おれもゆくから
おい...
おれを...
おれを置いて
ゆくな
深町は眠りに
落ちていた
翌朝
深町は浅い眠り
から眼を覚ました
ふわああ
午前5時32分
空にはまだ星が
残っている
...羽生は
まだ動き
出していない
出発まで
あと
2時間ほど
ある
朝食は昨夜のメニューと
同じーチーズを少し多めに
とり干しぶどうをひと握り
増やした
ハフ
ハフ
そして水分も時間を
かけてたっぷり摂る
ジー
カガカ...
ビカール・サン
起きてるか
ああ
充分
眠ったか
ああ
予定どおり
に?
ああ
7時30分に
出発する
了解
グット
ラック
深町は荷作りをすませ
外に出る
今日も風がない!
テントをたたんで
ザックに押し込む
深町は羽生を操る
羽生は一度だけ
深町を見やったあと
黙々とバッキングを
つづけた
12月18日―午前7時30分
快晴無風
風も雪煙もない、無防備だ
南西壁が羽生の前に全てをさらしている
何も隠さない何も緩わない
羽生はゆっくりと歩き出した。
第33話
鹵軍艦岩
ハア
ハア
ハア
そこまでおよそ8時間かけて
ゆくのが羽生の予定であった
2泊目の予定地、灰色のツルム
まで標高差1100メートル
登ってゆくにつれて斜煙が
ゆっくり急になってゆく
6600メートル地点で
ノーマルルートとの分岐点に出る
そこからルートを左にとって
南西壁の最下部へ向かう
ハア
ハア
標高6700メートル
凍った雪が崩壊していく場所から
その雪の上をたどってゆく
ベルグシュルントと呼ばれる
氷と岩の裂け目を抜ける
羽生は難なくその場所を
越えた
フッ
フッ
ハア
ハア
深町は羽生に10分ほど遅れて
ベルグシュルントを越える
はふ〜〜っ
ここからが深町にとっては
初めての領域である
今春7986メートルまで
登っているーしかしそれは
酸素ボンベを使用してのものだ
ハア
ハァ
今回はどこまでゆけるか
おそらくここから8000メートルに
届かないとこかの地点が自分の眼帯点
になるはずだ
ハア
そこから引き返さねば
ならない
生きて帰らねば
ならない
平均斜度40度の
氷壁を登る
かちがちに凍りついた
雪の斜面だ
堅いーー岩のようだ
深町は禁じる。
ハア
ハア
ハァ
じりじりと自分の体重を
上へ持ち上げてゆく
ハァ
フー
フー
ひとつの動作から次の
動作に移るまでの
インターバルが長くなる
ハア
ハア
フーーッ
ハァ
っ、
ハア
てきめんに酸素の薄さが
こたえてきた
ハア
ハァ
フーー
この急斜面の氷壁を
まるで歩くように登ってゆく
見上げれば羽生は
ずっと上の方にいる
羽生の頭の上は
もう軍艦岩た
くっっ
永壁に取り付いてから
羽生と自分の差が圧倒的な
かたちで表れた
くっ
深町は雑望感に
襲われる
ハア
フハ
ハア
フハ
ハア
フハ
もしかしたら...今が
引き返す時ではないのか
一反応速度が鈍って
いる体力も落ちている
今なら
今なら
間違いなく
引き返すことが
できる
体力を消耗し尽くしてから
引き返すことはまず無理だ
ハア
ハア
どうする
いや...
まだいける
ハア
ハァ
弱気を起こすと
できることも
できなくなって
しまうぞ
くそっ
弱気は
だめだ!
こんな
ところで動け
なくなってどうする
まだ7000メートルも
登ってないんだ
はふぅ
~~~っ
はふぅ
はふ
深町は意識的に大きく
速い深呼吸を繰り返す
はふぅ
はふぅ
動きを
止めるな!
ゆけ深町
アイゼンの
確保が
ゆるむぞ!
あの空へ
フッ
フッ
涼子
...
...!!
加代子
こんな時に女のことなど
思い出してどうする
死ぬぞ
バカ
ビッケルを氷壁に
打ち込む
次がアイスアックス
機械になれ
蟻のように攀れ
ハッ
左足
右足
ハッ
ハッ
考えるな
考えるな
深町は歯を噛みながら、
教りはじめた
標高6900メートル
フーー
フー
軍艦岩の下で深町は
喘いでいた
ハア
ハァ
ここに到着してから崩れるように
腰をおろしたまま動いていない
放心したようにウェスタン
クームを見下ろしている
その時
!
もしもあれが頭に
あたっていたら...
ヘルメットを割られ
頭蓋骨が砕けて
即死だった
わずか1メートルの差が
生と死を分ける
深町のいる軍艦岩の下は南西壁の
斜面では唯一落石の危険から
身を守ることのできる場所であった。
フー
フ
もう動きたく
なかった
体力が尽きそう
である
限界が近い
一頭に痛みがある
脳の内部に腐った果実が
なっているように鈍く重い
それが誰で刺すような
痛みを10秒おきにおこす
深町は思い出したように
テルモスを開いて熱く甘い
紅茶を飲む
はぁ
ふう
スス
ハア
ごぁ、立て
って出発するんだ
深町は何度も立とうとした
ハァ
立って歩こうとするが
すぐに座り込んでしまう
腰が抜けてしまって
いるのだ
ぐ...
くぅぅ
ろ深町
恨みだめ
事独行と決定でこの高由度は
取り付いたんじゃないのか
羽生はもうすっと上まで行っている
ハァ~~
羽生だ
もう..
あんなところ
まで...
..あ
いた
羽生は灰色のツルムまでの
3分の1近くも登って
しまっていた
今...何時だ
朝の7時30分に
出発してここに
着いたのか確か
12時ごろ...
ここまで
4時間30分
かかっている
しかも...
12時30分
今追わねば
もう追いつけ
ない...
羽生が予定
どおり4時間で
ここまでたどり
ついたとすれば
自分は1時間遅れて
いることになる
もう
ここで30分も
休んでしまっ
ている
灰色のツルムまで
羽生は4時間で
たどりつくとしたら
たぶん
それ以上
かかる
おれは
5時間か
無理だ
...
できない
あきらめ
よう
ここから
ひき返そう
そうすれば
...
羽生も
あそこからなら
おれが下りてゆく
姿が見えるはずだ
おそらく
羽生はほっと
するだろう
余計な
邪魔者が
いなくなったと
のが深町
帰ってしまっていいのか
深町の内部で
別の声がした
おまえは羽生が何をしようとしているのか
それをさりぎりまで見届けるために
ここまで来たんじゃないのか
帰ってしま
って後悔しないか
おまえは自分のために
ここまでやってきたん
じゃないのか
...
そうだ
そうなんだ
おれは
ぎりぎりまで
ゆくつもりだ
だが
死ぬため
じゃない
死ぬために
おれはここに
来たんじゃない
生きているう
だけ死ぬためじゃない
さあ立て深町で
立ったら下るんだ
下れば酸素が
濃くなる
ハァ
ここから帰って
もう忘れろ
羽生のことも
女のことも
山のことも
そうだ、
忘れて来たなってしまえ
ハッ
ハッ
ハァ
そうだえらいぞ
よく立ったじゃないか
んかもう見るん
足だってまだ動く
立派なもんじゃないか
気をつけて下れ
おい
そっちじゃないぞ
下りはそっち
じゃない
さっちの水壁にでてどうするんだ
おい~...
おまえ、まだ上にゆくつもりか
第34話
恩氷壁
そこを上へ
ハア
ハア
軍艦岩を出たら斜度が40度の氷壁を
左上方へ25メートルほどトラバースする
今度は斜底が45度になってゆく
羽生
中央ガリー
軍艦岩
深町
ハア
そして南西壁を縦に走る巨大な溝「中央ガリーに
入ってそこを700メートルほど登る
そこに今日の宿泊地である
灰色のツルムがある
ハッ
ハッ
ハッ
その場所は氷壁に凍りついた
雪の状態が様々であった
表面がつるつると石のように堅く
凍りついているところもあれば
アイゼンでなくても充分暴れ
そうなほど靴の爪先がほどよく
着り込む場所もあった
それが塗ってゆくに
つれて変化する
ハッ
どれかひとつに定まらない
深町は注意深く
氷壁の質を読み
違えぬよう攀る
フッ
ハッ
これはかなりの集中力が
必要とされる
フ
体力の消耗が激しい
ハフー
ハフー
深町は干しぶどうを3粒ほど
口の中に放り込む
ごり
ごり
それを何度も噛んで
胃の中におとす
ごり
ごり
行動中はまめに
エネルギーを補充
しなければならない
ごり
ごり
変もでない
くらいきれいに
消化してやる
そう思いながら噛む
噛みながら登る
ハア
ハア
何故、登るのが、
何故おれは上にゆこうと
しているのだろう
こんな思いをしてまで
クリッ
見つかりはじない
山にはどういう
落ちていな
〝山に何かい
落ちていると思う
〝山に行けば生き甲斐では
見つかると思ったが
それは
自分の内部にある
ものも
あるとすれば
たぶん.....それは
ゴホ
自分の内部に眠っている銃脈を
捜しにゆく行為のようなものだ
ぷ!
フーー
フー
ゴホ
ゴホッ
咳がとまらない
絶え聞なく空咳をする
頂を目指すというその行為こそが
答えなのかもしれない
ゴホ
馬鹿だな
つまらないことを考えている
いいようなことだ
頂を踏むということに
価値があるのだ
踏めば英雄だ
踏まねばただのゴミだ
...待てよ
フ!
フーー
でもそも
山ではなん
じゃあ人は何のために
生きているんだ
故人は生きてい
を目的に生きているの
フーー
ああ...また考えている
もうやめろ
今は機械になるだけでい
ハフ
ハフ
歩踏み出
五度喘ぎ
ハフッ
次に左手のアイズ
ハフッ
今度は三度端
それから右手の
ピッケル
それを正確に繰り返すことのですが、
機械になればいいんだ
深町家という人間が今登っている
それが現実だ
それで充分じゃないか
ゴホ
風だ
ゴホ
いったい
いつから風が
吹きはじめ
たのか
これは...
チベット側
からの風た
深町は中央ガリーの真ん中あたり
灰色のツルムの根元から300メートル
標高およそ7200メートルに達していた
エヴェレストの面積よりも
高い場所を吹く風
風が強くなってゆく
さらに雲まで出始めた
その雲は
エヴェレストの頂を
覆いはじめていた
上部がたちまちその
雲で見えなくなってゆく
ほつんと見えていた羽生の
姿も見えなくなった
ゴホ
ゴホ
あととのくらいだろうか
と深町は思った
ハァ
ハア
くそっ
重い...
足が棒のようになってきた
ハア
もう上部が見えなく
なってから1時間以上は
登りつづけている
強風の中体温がどんどん
奪われてゆく
フー
フ
おそらくマイナス
25度はある空気だ
指先に感覚が
失くなりつつあった
ゴホ
ゴホ
風が強く
息が乱れる
くそっ
フーッ
フーッ
疲労と寒さで足が
あがらなくなってきた
ぐぐっ
動けない
ぐう
う~~っ
ぐぐ...
いよいよ動けなくなってしまった
ぐ......
どうする......?
ぐおお
ゲホッ
ゲホッ
今、深町は水壁に張りつき風に
あおられて落ちぬようにバランスを
とっているだけで精一杯の状態だった
このまま動かずにいても
いずれ爪先の力が落ちて
結局は落下してしまうだろう
頭も低酸素で
もうろうとしている
動くことができない
風にとばされぬようにする!
そんな行為ももうどうでもいい
ことのような気になる
こんなに疲れているのにおまえは
何を頑張っているのか
もう休め手を離して楽になれ
重力に身をまかせて
しまえばいい
ふうっと身体が浮き
そうになるのをこらえた
...
フー
深町をその氷壁に
しがみつかせているのは
死への恐怖である
その恐怖が薄れそうになる
フ
ゴホ
ゴホ
恐怖が消えたあと
残るのは義務感である
ここにしがみついていないといけない
からーーそういう心が支えとなる
手も足も感覚がない
セルフピレーを
とらなければ落ちる
もう限界だ
しかし、どこでセルフ
ビレーをとればいい?
どこも堅い
石のような氷ばかりだ
この氷の中ヘアイス
ピトンを打ち込む
ことができるか
ああ...
もっと体力があり、
もっと高度が低く
もっと風がなければ
どで考えよう...
帰ってから..
ああ...
そんな夢みたいなことを
熱い風呂につかる
考えたって
日本で
日本の居酒屋で
酒を飲みながら
考えたっていい
ビールはやめとこう
冷たいビールなんて
今は飲みたくない
熱くした酒がいい
その酒を飲みながら
でも
...
なあ、そうだろう。
おまえ、新潟だったよな
...
あそこはうまい酒、あるよな、
あなた
ああ、おまえにまがせる
...
さあ早
水牧子
!
ハァ
ハア
ハア
左手のアイスバイルがはずれ
氷壁にしがみつく
ぐっ
幻覚だ
くそっ
くう
ばかっ
落ちるとこ
だったぞ!
ハフ
ハフ
フー
「たしかにおれは今
自分が日本の居酒屋にいて
息を吸る匂いを嗅いでいた。
アイスバイルとアイゼンの
前爪をもう一度打ち込む
とにかく...どこか
もっと足場のよい
ところへ移って
ピレーをどらなければ
ハフ
たぶんこのままでは死ぬだろう。
そこでセルフビレーをとって
筋肉を休ませる
って風が止むのを待とう...
第35話
第35話
恩灰色のツル・
あたり一面真っ白だ
耳もとでごうごうと風がうなる
せめて
...
どこか
足場のよい
ところが...
おい...
フフフラフラステストを
...声が
する
おい......
あ...
深町いい
あそこだ
...
手伝ってやろうか
おれがピトンを
叩いてやるよ
...
井岡さん
船島さん
.....
アイスバイルは
軽いからな
いくら叩いても
ピトンは潜り
込まないんだ
いいですよ
井岡さん
そうか
自分でやるが深町
自分のことは自分で
やるのが山屋だ。
なあ深町
自分で
やりますよ
そうですよ
自分で
やらなきゃ
ならばほれ
おれたちが立っ
いるここに来い
ああ
ここに立って
ここからやれば
打ち込みやすいで
!
そうだな
...
そうするか
うおお
ハッ
ハッ
井岡も
船島も
ハァ
ハア
残念だったな深町
幻覚か
ハア
この5月に
死んでいる
それとも
...
じゃあな、深町
ふたりの魂が
まだ極寒のこの
天空でさまよって
いるのか
またな
くそっ
死んで
たまるか!
死んでたまる
かーーっ!!
フー
...
フー
お...おれは
死なんぞ!
おれは...
できるだけのことを
ぎりぎりまで
やりぬく
頭の中か一瞬
鮮明になる
おれに
できることを
する!
それだけだ
5メートルほど下の左寄りに
福状に氷壁が盛り上がった
場所かあったはずだ
ハフ
ハフ
位置に下る
そこまで下れば、なんとか
アイゼンの爪を全部略ませる
ことができる
20センチずつ下る
このままだとあと5分も
生命はもたない
おれは...今:おれにできることを
するだけだ
そのあとはおれの領分ではない
自ら死を選んだりしないーーー誰も
神々の領分だ
ハフッ
喘ぐ
ハフッ
ハヒ
長いー
ーとても長い距離だ
ハヒ
喘ぎながら下る
ゼヒー
着いた...
ゼヒー
ゼヒー
ここまで動いただけで呼吸が
乱れる苦しい
ゲホ
ゲホ
ゼヒー
ゼヒー
カチャ
カチャ
カチャ
フ!
フッ
氷壁が堅いーーアイスピトンの
先がなかなか浸り込まない
力が入らない
息を止めて叩く
苦しい
ゼヒ
呼吸を止めていられない
喉が痛い肺が痛ぃ
風にさらわれそう
になる
ゼヒ
パランスを崩さぬよう
何度も叩く
1:2センチ潜り込ん
だがこんな浅さじゃ
どうしようもない
無限の繰り返した
何度も叩くp叩く
もっと深く
「それよりはずっといい
とにかくやることがあるというのはいい
何もしないで力つきて落ちる
ゴホ
ゴホッ
かあっ
喉につまった痰を吐き出す
痰はすでに氷壁で
凍りついた
べっ
ああ
そうだ
これだ...!
これを
やろう
おい...
深町...
また井岡と船島が
空中から見ている
おい深町
手伝ってやろうか
けっこうだよ
自分で
やる
シュリングをアイス
ピトンにひっかける
カチャ
アイスピトンがぐらぐらする
このままじゃ体重をかけ
られない
おい
やめろ
アイスピトンを
揺するんじゃ
ない!
ああ...
いや
まてよ
さっき思い
ついたじゃ
ないか
もう...
ここまでかな
痰を吐き出し
た時...
あ...
そうだ
これだ
ごく
ごく
温かい...
ふう
深町はテルモスを取り出す
まだ
残っている
あ...ばか
飲むんじゃ
ないんだ
アイス
ビトンた
少し
アイスピトンの
根元にかけ
るんだ
...
いいぞ
これだ
ほんの
少しだけで
いい
その熱い液体がアイス
ビトンの金属を伝って
根元の氷を溶かす
これで
いけるぞ!!
溶かした途端に凍りつく
よし
堅くなった
動かない
ぐらぐら
しないぞ
深町はそこにセルフ
ピレーをとった
ほんの少しだけほっとする
井岡さん
...
がんばったな
深町
おれ
船島
さん...
がんばって
みるから
やれるだけの
ことをやるよ
ああ
...
このまま
夜まで..
もう
やることが
ない..
こんな
吹きっさらしの
場所にいたら
死ぬだろう
風だ...
おれは...
この風が
止んでくれたら
...
ふいに熱いものが
心の裡に点る
ああ...
...
涼子
今ならば
言える
今ならば
言えるだろうな
あの時
...?
実は
自分はあなたを
この腕の中に
包みたかったの
ですと
ああ...
あの
女の身体の
肉体の
血の温もり...
あなたと
あんたと
くっついて
いたい
今
あんたが
欲しい
涼子
今どこにいる
何を思って
いる
あんたが
好きだ
...おれは
あんたと
いる時は
ああ
今そんなことに
気づくなんて
もし
本当に楽し
かったよ
もし
生きて帰る
ことができたら
会いにゆく
もう
上に行かなく
たっていい
真っ先に
ゆくよ
これから
......
もうセルフビレーを
はずして歩いて
日本まで帰ろうか
雪になにかか
ふれる音だ
それが近づいてくる
その時
プリザードの激しい音
の中に混じって小さな
微かな音がした
何の音か
音が大きくなってくる
石だ!
石が氷壁の上を凄い疾さで
転がりながら落ちてくる音だ。
よけなければ
すぐ上だ
強い衝撃と
同時に
意識と体重が
消え去っていった
ハーネスが引っ張られ
身体に衝撃があった
これで死ぬな
深町の脳裡にそれだけの
思考がよぎった
意識の消える寸前
深町
おい
大丈夫か
おい!
気がついたのは
自分の身体が
揺すられたからだ
深町
おい
声がする
低いが強い声だ
熱気の塊のようなものが
自分のすぐ近くにある
その熱気が自分を
抱えている
深町
いい
...誰だこの男は
ああ
...
こんな高さの所に
いったい誰がいるのか
羽生...か
う.....
よしっ
生きているな
深町
羽生の筋肉の動きが分厚い
服の厚みを通しても伝わって
くるーー強い動きだ
この高度でこんな凄い肉の
動きができる人間がいるのか
その男が眼の前にいる
羽生丈二だ
フ
いい
しかし...どうし
羽生がここにいるのか
フー
また幻覚を見ているのか
なんでこんなところに
ザイルが...
ああ...羽生か
羽生が上から降りてきたのだ
こんな
ビレーで
いいか
深町
よく助かった
もんたな
ここに
ユマールは
ない
ふるっ。ふっと
ガチ
ガチ
おまえ
プルージックで
ビレーをとりながら
ダブルアックスで登る
ことができるか
ああ
や...
やれると
思う
ハア
ぐぐ...
ハア
ハッ
ぐっ...ッ
ハッ
無理だな
ハア
ハア
深町はこの風の中に無防備に
さらされていたため腕から
先が冷えすぎたのだ
ぐぐ
小指に力が入らない
おれを
置いてゆけ!
こういう時、手足の未端
から凍像でやられてゆく
おれに
かまうな
ガチガチ
この高度で動くのをやめた肉体は
たちまち体温を奪われてゆく
少し右へ
移動しろ
カチャ
羽生の肉体が自分の横にいる
だけで火のように熱いものが
伝わってきそうに思える
な...何を
する気だ
フウ
よし!
深町
ザックを
おろせ
やめろ
おまえまで
死ぬぞ
いいから
言うとおりに
しろ
おれに
かまうな!
さあ
ザックを
おろせ!
ど...どう
する気だ
羽生は深町の装備をアイス
ビトンに繋いで固定した
ピッケルと
アイスバイルも
よこせ
なぜ
おれにかまう?
あんたは
おれと関係なく
登るんじゃ
なかったのか
黙れ!
いいか深町
おれの言う
ことをようく
聴け!
おまえは
アイゼンを壁から
離してぶらさがり
おれの背に回れ
これから
おれは
おまえの下に
潜り込む
おれに
おぶさるように
なればいい
ああ
やめろ!
無理だ!
黙ってろ!
ま...
まさか
...?
羽生
早く
アイゼンを
はずせ
早く
しろ!
うう...
よし
それで
いい
羽生
無理だ
やめろ
くそくくく
深町の体重も身に纏っているもので
何キロほどになるその重さを背負って
とてもこの高度で登れるものではない
できる
ものか
あんた
おれと心中
するつもり
か!
黙れ!
...
その瞬間、羽生の背に深町の
全体重がかかる
ザイルからフルージックをとっていた
深町のナイロンロープを切り離す
羽生さん
やめて
くれ
もういいよ
おれを
ここに放り
出してくれよ
もう充分だ
フ!
しっかり
つかまってろ!!
羽生
やめて
くれ...
ただ独りで
真冬の南西壁をやる」
それがどれほどのことか
「しかも無酸素で
このために言うれまで羽生が
どれほどのエネルギーと時間を
かけてきたか
そのために何をしたのか
何を捨てたのか
フーッ
フーッ
フーッ
それが
深町にはわかる
おそらくこれは
羽生という男の全生涯をかけた
仕事なのだ
このために、これまでの
羽生の生涯はあったのだ
それを......今
他人のために
おっ
フ
フ
おれはなんという
こんでもない真似をこの男に
させようとしているのか
やめてくれ
できるわけがな
フウ
そした
フウ
や...やめろ
やめて
くれ
羽生さん
...
お...おれは
あんたに
助けられる
資格はないんだ...
羽生
やめてくれ
力強いリズムだった
ッ
...
フ!
風が強いな
.....
!
深町の腹の下で非生の
熱い筋肉の動くのがわかる
激しいブリザードの中
この登録がどれほどの
エネルギーを必要とすることが
火球のような呼気を
羽生は吐いている
深町は羽生の背中から
熱気が立ち昇ってくる
のを感じていた
もう
いいよ
ここでこれだけの体力を
使ってしまって明日
この男は行動できるのかー
フーーッ
羽生さん
...
フッ
やめて
くれよ...
フッ
フッ
...
羽生さ
さー
...
深町が顔をあげた
時ーすぐ
頭の上に灰色の
しか見えた
白と灰色のフリザードの向こうに
巨大な岩峰がそそりたっていた
その根元に青い人工の色が
見えた、羽生のテントだ。
ハア
壁にもたれて
じっとしてろ
ハァ
ハア
ハァ
ーっ
ふー
眠るんじゃ
ないぞ
羽生は深町をテントの中に
投げ込むように入れてから
もう一度下って深町の
ザックを回収してきた
羽生
このプリザードの中標高着
20メートルほどだが常人に
できる薬ではなかった
羽生は蜂蜜と紅茶と
レモンの絞り汁を温めた
ズズゥ
ズルズル
指がうまく動かない
深町にかわって羽生が
その作業をした
ハフ
ハフ
羽生も深町もそれを
たっぷりと飲んだ
それから羽生は自分の
食事を摂る
ムシャ
ムシャ
しかし深町は予定の量の
半分も固形物は口に
入らなかった
おえっ
常に後頭部に痛みがあり、
時折心臓の鼓動に合わせて
強い痛みが襲ってくる
ゲホッ
ゲホ
食欲がなく
吐き気がして
飲み込めないのだ
頭痛がある
ぐっ
狭いテントだった
いいか
深町
死にたくなきゃ
その姿勢を
崩すんじゃないぞ
横になって眠る
ことはできない
ここで
テントを張る
ことができるのは
しかもここの
狭いこの場所
だけなんだ
...
唯一
この岩の下
だけだ
他の場所に
テントを張れば
ひと晩に何度か
必ずテントを
落石が襲う
それか
頭部にあたれば
死ぬ
眠る時も
その姿勢で
いることだ
もしザックの上に
上体を抜せて
寝込んでしまったら
落石が直撃する
おれが
山だったら
そういうミスを
犯す人間の頭には
遠慮なく
石を落とす
背にした岩から
GOセンチまでが
安全な空間
なのだ
...
深町の頭部に
高山病の頭痛と
別の痛みがあった
落石を受けた時の
痛みたった
ここでは
どんな小さな
幸運も
期待するな
風が強まってきた
食事が済んで羽生は
口を利かなくなった
羽生の胸中には
あくまで単独行との
想いが興のように
点っているのであろう
...羽生
さん
...何故だ
あんた
何故おれを
助けたんだ
眠ってはいない光る目
だけが前方を睨んでいる
必要以上のコミュニケー
ションをかたくなに避けて
いるようにも見えた
強い熱気が羽生の肉体から
立ち昇っているようであった
羽生は深町のために
食事の用意もして
やったー
しかし自分のためには
深町の手は一切借りす
深町のものを利用する
こともしなかった
羽生は深町がそこにいないかのように
黙りこくって目を光らせている
今羽生の脳禅に浮かんで
いるのはこの周のこと
であろうが
この風が明日も
続くのか...
もしこの風が
12月の末にやってくるはずの
シェットストリームだとしたら、
このブリザードは
これから絶え間なく
ほぼ、ひと冬続くことに
なるだろう
どうなのか
羽生はどうするのか...
もしかしたら
目分はここから生きて
帰れないのかもしれなぃ
強いブリザードの
音がテントの外で
うねっている
うっ
フ
遠くから犬の吠える声が
聴こえる
怒っているような声だ
フーー
あちらこちらの犬が
次々に吠えはじめて
犬の群れが集団で
吠え唸っている
近づいてく
おい
く...
来るぞ
聴こえる
だろ
犬の声だ
...
猛っている
犬が猛って吠えている
ああ
犬というよりも
それはもう獣の声だ
聴こえ
ないのか!?
羽生!
うっぷ
わああ
〜〜〜っ
こりゃあ
もうね
駄目
だね
フウ
フウ
見ろよ
息が
あんなだ
ごろ
ごろ
ひゅう
ひゅう
ハフ
でもぶつぶつ
.......かな
喉が鳴って
いる
ああ
ぶつぶつ
だろう...
だから
ぶつぶつ
だよな
ふうん
何と言って
いるのだ
こいつら
何を
やっぱりね
ふっふっ...
そうかかか
かか...
おい
聴こえ
ないぞ
おい!
おい
深町
深町
う...?
フウ
フウ
おまえ
ひとり言を
言ってたぞ
...
ハフ
フウ
フウ
ハフ
ハフ
あれは...
幻聴だったのか...
ハフッ
ハフッ
ハフッ
くそっ
どうなってしまうのか
...このおれは
落石だ
危なかったな
テントが
破れただけで
すんだ
もう10センチ
足を前に出して
いたら爪先を
潰されたところだ
どうした
動くな!!
気を
つけろ
ひとつの岩が
落ちるとそれが
呼び水になって
また、岩を落とす
エヴェレストは
生きている
落石の間を
読みとる!
このレベルまでの
細かい精神の作業を
羽生は日常的に
己に課しているのだ
羽生は一種の
人格を持った存在
としてこの山と
対峙している
この南西壁という
岩壁とその腹の
さぐりあいをやって
いるのだ
そしてその山が
ひとつの意思をもった
獣であるなら
その獣は今
闇の中で目覚めており
猛って咆哮している
羽生も自分も今
その獣の懐の奥深くに
入り込んでしまっている
第36話
園真相
...何故だろう
何故か...
何故ここまで過酷に
リスクを最小限に抑えて
さた羽生が...
あのよ
うな危険を..
してこのおれを
れたのか...
どうして
なんだ?
何故
おれを
助けたんだ?
...
岸だよ
...
岸だ
...
岸!?
これで
チャラだ
あんたを
助けたのは
おれじゃない
...
チャラ?
おれがこれまで
生きてきた分で
貸し借りなしって
ことだよ
あの...
涼子の
...
岸文太郎
のことか
ああ
...
サイルはたしかに
切られてたんだよ
......
...
岸だ
しかし
切ったのは
おれじゃない
岸が...
自分のナイフで
ザイルを切っ
たんだよ
それを
これまで誰かに
言ったのか
いや
何故
今まで
それを黙って
いたんだ?
羽生は宙を睨んでいたー
テント内部の空気が軋むような
長い沈黙の中で風が鳴り
山が吠えている
フーー
フー
深町はしばらく
うとうとした
テントの外でブリ
ザードの音がうねる
まるでその音の
中に浮遊している
ような気分だった
幻聴や幻覚を見る
深町はそれが夢で
あるのか現実であるものか
その区別がつかなかった
ああ...
ウェスタンクームの上を
提灯を持った女たちが一列に
なってゆっくり歩いている
あんなところに
そんなはずはない
ああ
そう思うが
やはりそれはかなり
鮮明に見える
現実と幻覚とか
交互に入れかわり
ハッ
あれは
...
ハッ
時には融合して
境界線が曖昧になる
今も声がしている
どこの6
女の声だ
涼予の声が聞こえる
それが近づいてくる
ああ...
いいんですけど
私もSMARITT
宮川や船島の声がする
では家に
おい!
来たぞ!!
何がだ!
ハッ
助けだ
ハッ
あれが
聞こえない
のか!?
ハァ
ハア
ハア
おい
深町
深町!
ハア
ハア
ハア
もう駄目だ
これは...死ぬな
ハア
ハア
おれはもう
死ぬな...
ハア
ここで死ぬ
こんな狭いテントの中で
死ぬ...
恐怖感はない
しかし...おれが死んでも
羽生は生き残るだろう
風が上のは羽生はまた
頂上を目差してゆくことに
なるだろう
この先にはいよいよ
南西壁の最大の
難所が控えている
フウ
フウ
そこへ向かって
この男は会ってゆくだろう
登るのか
この挑戦を
どんど不可能な
やってこの男は
やりとけようというのか
ハ..
ど...
どう
するんだ
どうする?
明日
...
ノ...
登るさ
ど...
どうやって?
...どういう
コースで?
晴れて
風が止んだら
ゴホ
たぶん
しゃべっているうちは
死なないだろう
ここから左へ
40メート!!
トラバースだ
ゴホッ
...
それから?
それから
どうする?
ゴホ
...
ルートは?
それから
!?
大中央ガリーを
上へ率る
幅20メートルの
氷壁だ
羽生はおれにつきあっ
くれる気なのか
羽生は深町の
問いにぼそりぽそり
と答え始めた
その氷屋が
左クーロワールの
入口まで
延びている
約80
メートル
ツーピッチで
たどりつく
羽生はこの
南西壁を知り
尽くしている
世界中の誰よりも
そこが高度
7800メートルだ
その地点から
約300メートルの
高さで垂直の
岩壁が聳えている
ここを左の
クーロワールを
撃って越える
クーロワールーー岩壁に縦に
伸びた岩の薄てある
ここがロック
バンドと呼ばれる
最大の難所だ
やか4メートル
ほどの岩湾だ
その氷壁を
撃る斜度が
50度から60度だ
そのどんづまりに
高さ25メートルの
岩の垂壁がある
これを
登りきれば
ロックバンドの左端
の上部に出る
それから?
それから
傾斜路を
右斜め上方へ
移動して
ゆくと
小さな
雪田に出る
これを越え
雪の詰まった
ガリーに入り
ワンビッチ
あがって
そこが次の
キャンプ地となる
そこまで
休みなした
標高8350
メートル地点に
出る
時間は?
連続した
8時間の登攀を
することになる
できる
のか?
やれる
次の日
そこから
南稜へ
ルートをとる
イエローバンドの
直下を右へ
移動する
雪のしがみついた
一枚岩帯を伝い
南峰ルンゼに
出る
ルンゼに入って
岩帯から
押し出されてきた
雪壁をつめて
ゆけば
そこは
エヴェレストの南城
直下にある
場所だ
8760メートル
頂上まで標高差
100メートル
南峰の
コル【鞍部】へ出る
そこからは
いわゆるノーマル
ルートた
ノーマル
そこから先は
ヒラリーステップを
越えて頂上に
到る
これが
おれの想定
しているルートだ
...
下りは
サウスコルで一泊
そのあと一気に
ベースキャンプまで
駆け降りる
...
フウ
フウ
無酸素単独で
そんなことが可能だろうか
たしかに理屈の
上では可能だが
現実には誰も
やったことがな
不可能だから
しかし、羽生の傍にいると
もしやこの男なら
そういう気持ちになる
フーー
あろいはこの男なら
それが可能なのではない。
しかし...何か妙なものが
深町にはひっかかっていた。
何だろう
深町は低酸素の
朦朧とした思考で
考えてみる
フ!
...装備のことか
ルートのことだ
ああ...そうだ
ルートナ
たしかーーそれは羽生にとって
とても重要な問題であるのではないか
...
なら
結局
ノーマルルートで
登頂すると
いうことか...
...???..
なんだと
言ってからその言葉の
持つ重み、その言葉の
持つ恐ろしさに
深町は気づいた
...
...第4条くん
もうひとつの山嶺
たったひとりの山。テツのいない山立ち。あれからどれだけこの年月が過ぎ去ったのだろ
うー、忘れようとしていたテッの死
若い想いを反芻しながら空をあおぐ。雪面にひざまずき、掌を合わせ唱え言をする。
表の目釘はホンオーカ
裏の目釘はダイオーカ
鍔はハシタの大明神
刃元は白山大権現
南郷アプラウンケンソワカ
関抵アプラウンケンソワカ...
山に住まう神々にさびしきを癒す法を二度唱え祈った。北からの徹風が小枝をゆらす。
山陰の稜線に沿ってその輪郭を目でたどってゆく。雪をまとつた乖厳なる山塊は巨大な波
のように盛りあがり、山全体が息づく。
谷ロジロー
ふふに黒々とした塊がうしろ足で立ちあがり威嚇する。大きい
テツもほかの生きものと同じしようにこの山々の片鱗にすきない。つかの間犬の姿をとっ
たあと、もう一度山膜に1.吸収されて、他の生命として再び立ち現れるだろう!
ようやく長い間なくしていたものえ、取りもどせそうな気がした。
ひと息ついたあと、再びカモシカの跡み跡を追う。焦って歩く〈速度をはやめると、長く
は歩けなくなる。ゆっくりでいい。雪面の傾斜が少しだけきつくなってきた。段丘が尾根
へとっづく。カンジキでパランスをとりながら、一歩一歩を注意げく選び、歩く。
行く主の幹の間から再生が見えてきた。森一方聞けていくのがわかる。やはり食べ気持ち
はない。
ふと、新しい足跡を見つけて立ちどまる。それはカモシカの足跡に交流するように大きく
左右腕がついていた。我が、子袋をより東京の緑に指できおってみる。また張りついてい
ない。雪がふわりとしていた。カモシカの踏み跡よりも新しいい。ついさっきここを通った
ばかりのようだ。すべての感登録官を引き緊めて精神の集中え保つ。あたりの気配をうか
がう。どんなかすかな物音も聞きもらさぬよう、耳を研ぎすます。
背後に風を感じた。振り返る!【不機嫌に鼻を鳴らす音が聞こえた。逆光で見る態は君
のような黒い塊だ。体を前後にゆすうている。迷っていき。いらだってぃる。
そっと肩から銃をおろす。村田式単発銃だ。祖父から譲り受けた年代ものの旧式な猟銃
だが、手入れはゆきとどいていた。ボルトを引き、弾丸を表現する。
山の息吹が五感をゆする。
つづく
羽生に散出され、己が原発であることを
知った深町は下山することに。
果たして、
知った道路は、下ろことに途中、山町の見える結果から、フィーダー難しいと思ったのは、信じられない光景を目の女だけです。
羽生の単独登頂の結末は!?
頂の状況
頂の彼方...
この
遥かっ
な天堂へ
ビジネスジャンプ実蔵版
かみかみのいただき
IFFは
ピントコー
「ビジネスジャンプ」HP年4157、18号まで
妊評連載されたものを収録しました。
3J5hEss.luMP要蔵版
神々の山嶺4
2003年4月23日第1刷発行
著者
夢枕獏
Copertionemazonker.2018
谷口ジロ
@ifioTaniguth.2018
編集
株式会社ホーム社
電話・東京135211-2651
〒101-8050東京都千代田区-一ツ橋2-5-10
発行人
山路則隆
発行所
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電話・東京は3230-6191〈販売
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投害となります。
ISBN4-08-782786--0-CO97c
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子供が来てんる事かもしれませんか