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神々の
COSERDESGMV/生産出来
夢枕獏
2016年01月19日-2月
各ロジロ
ISBN4-08-782788-?
c0979、¥1000E
定価本体1000円十税
神々の山南、
作夢桝獏
西8企画ダイエット
出来ないよ
...
作夢枕獏
あ、今日ジロ
なんの
かみがあのいただき
山藻じっ
いや...お母さんは
ロジロー
ッ
...
「Wordアプリプラスコンデニア
もうひとつの山嶺谷口ジロー
第6話
最終話【園未踏峰
第43
第44
第45
第42話
第39
結話話話は
4話♀話4話9話0話年話
第40
第41
ははは...
話
第38
..
何か気になるのかもしれない
うっ!
山狼伝
山の根
北東稜
神々の座
生きる
伝説の登録者
東京
183159135
!!3
!!
頂へ(その2)
頂の夢
かみかみの
いただき
一度の第3巻目が
第37話園頂へ(その1)
253
5.
★この作品はファイケションです実在の人物
現在、事件など...、関係ありません
第37話「夏
第3話
N頂
Y(その1
12月14日―
[午前7時10分
昨夜ほどではないが
まだ風は強かった
音をたてて
激しく雲が動く
氷壁の別れであった
羽生は上へ
深町は下へ
言葉はない
無言の別れであった
羽生..
深町は昨夜のことを
問いたかった
自分が思わず口にしてしまった
言葉がどのように羽生に
影響を与えてしまったのか
深町は羽生の姿が見えなくなる
までカメラを構えていたかったが、
深町も生運のため下降を
始めなければならない
ただひとりの脱出行
深町は下りはじめた
この場所にいては死ぬー
6900メートルの軍艦岩まで下る
しかしアイスハーケンを
自由に使えるだけの量を
持ってきているわけではない
途中2度アイス
ハーケンを使った
基本的にはアイスパイルとビッケルを
使いダブルアックスで下ってゆく
残りは3本になった
ある意味ではこの下りの方が
難度か高いといえる
フッ
フッ
もう
あんなところに
フッ
フッ
下る途中に見上げた時
羽生の姿が小さく見えた
信じられん
動きだ
左クーロワールの入口から
中へ向かってゆく姿であった
ハァ
ハア
その次に見上げた時には
もう羽生の姿は見えなかった
濃い雲のような霧が
エヴェレストの上方を
覆い尽くしていた
ハア
それは激しく左から
右へと流れていた
だがクーロワールの中には
テントを張る場所も
ビヴァークする場所もない
あのターロワールの中に入ってしまえば、
外でどんなに強風が吹いてもほとんど
無風状態となる
ゆける時にできるだけ
上にゆく
もしチャンスがあれば
いっきに頂上をねらう
それが羽生の作戦であった
今
クーロワールを
抜けたか
...
羽生はどう
しているのか?
ハア
エヴェレストを
分厚く寝った
あの雲の中で
...
ハァ
羽生は
何を考えて
いるのか
午後8時13分
フーーッ
深印が軍艦岩にたどりついた
時にはすでに腰は沈んでいた。
フゥ
フゥ
フ!
ハァ
ハァ
フゥ
テントを設置し終えた時には
完全に夜になっていた
風は強いが昨夜とくらべれば
そよ風のようなものであった
深町は熱い湯を沸かしたっぷりと
砂糖を入れて何杯も飲んだ
乾燥野菜を
茹でもどし
ふう
.....まだ
頭痛は
あるが
スープに混ぜて食べる
ハフ
幻聴も
...
ハフ
もう
幻覚は
見えない
700メートル
下っただけなのに...
ハ...
消えて
いる...
フウ~~~
空気が濃く
なったようにも
感じられる
無事にここまで生運できたことが
奇跡のような気がした
そして疲れきっていた
外に出て小便をしたあと
寝袋に濁り込んだ時には
たとえ雷尉があっても動くことが
できなくなってしまった
明日は...
ベースキャンプまで
もどらねば
ならない...
...眠ら
なければ...
しかし
眠れなかった
フーッ
たまにうとうとするが泥沼の中で
のたうつような浅い眠りだった
眼を閉じていても
瞼の裏では眼球が
起きている
フーッ
この分だと
...
エヴェレストの
上部の風は
荒れ狂っている
力もしれない
風が強いな
羽生は
今どうしているのか
結局
あの時
もうろうとした
思考の中で言って
しまった言葉
最後は
ノーマルルートを
使って頂上に
立つのか
あの時の羽生の表情が
韓明に脳裏に焼きついている
登れるのが
はっきり
わかっている
ルートなんか
おれのせいだ
そんな奴は
通常の登山道を
歩いてればいいんだ
地面を
歩くのと
同じじゃ
ないか
羽生が言った
言葉だ.....
それだったら
岩なんか
やめろ
本来の
ルート..
それは他人が
やったルートを
なぞるだけの
行為だ
あそこは
直登のルート
こそが楽しい
それが
このおれの
ルートた
時もそうだった
ンドジョラスの
そして羽生は
そのルートを
選んで落ちた
染なルートがあるのに
すぐそこにそのルートが
見えているのに..
田難な方へ困難な茨へ
羽生はルートをどってゆく
おれのせいだ...
エヴェレストの頂上直下の
ウォールのことはおれもやっている
ずくずくの岩だ
バーケンが役に立たない
がい浮き石だらけの岩壁
南西壁のルートは
最後の頂上直下ウォールは避ける
ノーマルルートへ出て登頂しても
よいと認知されている
手をかければほろほろと
表皮が割けるように音が落ちる
そこが
あまりにも危険だからだ
...なのに
何故自分は
あのようなことを
言ってしまった
のか
いや
待て
あたりまえだろう
.....やるわけか
ない
登るわけが
ないじゃ
ないか
いくら羽生でも
そんなこと
やるわけかない
〝必ず死ぬとわかって
いることだけはしない。
"わざと落ちる
それだけは
できないんだ!
羽生は手記に
そう書いている
羽生はそれを
やるわけはない
“必ず死ぬと
わかっていること
......など
深町は眼を閉じて
いるつもりが
眼を見開いて
暗いテントの間を
睨んでいた
「どこにいる
羽生
この風の中、おまえは
生きているのだろう?
どこにいる?
クーロワールの中か
それとも
ロックバンド
上に出たか
おれはおまえのサッグの中に
自分の食糧を入れた
これはおれを救出するために
使用したエネルギーの次だ
羽生よ...
気づいたか
ひと握りの干し葡萄と
一枚のチョコレート
足らないかもしれないが
いざという時にそれを喰え
それしかおいていけない
おれも生き残らなくちゃ
いけないからな
羽生よーー生きているか!?
生きて守吸しているか
...羽生よ
12月15日-
[軍艦岩
強風
マイナス20度
ホロー
何も見えない
12月16日-
軍艦岩
強風マイナス27度
明日ー
ー視界なし
羽生のことを想う
食糧切りつめる
ガリ
「チーズひときれ
ビスケット3枚
ズ
ズズー
朝スープ
ボリ
ボリ
夜スープ
チョコレート
12月17日
軍艦岩
マイナス25度
雪ーー
わずかに
青空が覗く
羽生!!
生きているか
食糧切りつめる
す
アスープー杯
ビスケット3枚
バリ
バリ
湯だけは
たっぷりと飲む
ハフ
ハフ
ズズーッ
夜スープー杯
ビスケット3枚
チーズひときれ
深夜ーー風がやむ
うう
あれほど絶え間なく
テントを揺すっていた
風が今はない
それで目が覚めた
風がやみ、しばらく深い眠りに
落ちていたらしい
ふわああ
そして今度はあまりの静けさに
目が醒めてしまったのだ
......何故
こんなに静か
なのか
何の音も
聴こえて
こない
外は...
明れたか
...
すごい
おお!
すごい
星だ
これまでに見たこともない
凄い数の星だ
星の海の中に、深町はいた
その中でひとりだけ生きている
ひとりだけ日分が呼吸してい
ああ
「もうひとり
羽生がいる羽生よ。というのがいろ
羽生丈二は
生きている
だろう
何故
なら
この自分が
生きている
からだ
この3日間を
羽生は必ず耐え
きったであろう
あの天に近い
岩稜のどこかで
羽生は
自分がどれほど
巨大なものを相手に
しているのか知って
いるのだろうか
凍った雪を
噛むようにして
羽生はまだ
闘っているのだろう
.....
羽生!
今おまえは
この瞬間生存する
どの人類よりも一番
高い場所にいる
一番孤独な
場所にいる
そこで
おまえは歯を
軋らせている
のたろう
まだ生きて
おまえは、あの星に近い
天の一面で、たった
ひとりの開いを
闘っている
それなのに
帰ることが
できるのか!?
できない
帰るわけにはいかない
それは羽生丈二がまた
生きているからだ
生きて、あの痕にたどり
つこうどしているからだ
12月18日-
晴天
早朝5時
フゥ
深町は下降するしかし
アイスフォールにではない
ウエスタンクームを南稜側へ
トラバースしながら下ってゆく
フッ
フッ
ハア
ハア
エヴェレストの頂が
見える場所までだ
午前7時
ハア
ハア
標高6700メートル地点
エヴェレスト南稜下の
岩場にテントを張る
カチ
カメラをエヴェレストの
頂に向ける
直線距離で2・5から
3キロメートル
運が良ければ羽生の姿を
ファインダーに捕らえ
られない距離ではない
食糧はあと一日分半に
なっていた
天気がよければ
食糧を切りつめて
ぎりぎり2日ここで
ねばることができる
午後9時30分
カメラをセットして
からすでに2時間
しかし羽生はまだ
姿を現さない
風がない
この日に
羽生が動かない
わけがない
絶好のコンディションだ
どうしたんだ
羽生
どこに
いるんだ?
予定どおり
ロックバンドを
越えて
8350
メートル地点に
キャンプして
いたのなら
今頃はあの
イエローバンドの下を
トラバースしている
はずだ
もし早朝から
動きだして
いるのなら
あの南峰のコルに
たどりついて
いても
おかしくない
どうし
たんだ
羽生
ほとんど5分おきに
ファインダーをのぞく
.....こんなに
長時間姿が
見えないことなど
あり得ない
まさか!?
午前10時36分-
深町はファインダーを
イエローバンドの上方へ
移動させながらのぞく
キュッ
キュ
ああ!!
羽生
イエローパンドのさらに上方を
上へ上へと向かっていた
それはコミのような小さな赤い点
それが動いていた上へ
...
第38話
恩頂へ(その2)
そ...
そんな
...
馬鹿な
...
や...
やめろ
.....!!
やめるんだ
羽生!!
羽生は、今、
エヴェレスト南西屋でも長大級の
危険出品を呼びにゆっくりと受動していた
ああ
だめだ
だめだ
こんなことが
あっていいわけ
がない
羽生
やめるんだ
引き返せ!
羽生の姿は500ミリの望遠レンズを
通してもゴミのような赤い点と
してしか確認できなかった
11時1分
しかしその点は動いていた
ゆっくりと
ほとんどカタッムリが違うような
速度で上へ動いていた
2枚3枚
4枚
深町はシャッターを
押しつづけた
押しているうちに強い恐怖が
深町を襲った
あの時
あの井岡と船島が死んだ
時もこうやって写真を
撮っている時だった
この同じカメラ
ーこの同じ
レンズで
だめだ
...
落ちる
羽生は...
落ちる
この状況があの時と似てるとか
カメラが同じだとか、そんな理由
だけではなかった」
あんなに
難しい壁を
やれるわけがない
あの壁が堅い
岩ならどんなに
オーバーハング
していようが
羽生は
やってしまう
だろう
あそこが夏の
ゲレンテなら
どんなに浮き石が
多かろうと
羽生は繰り
切ってみせる
だろう
だが、そうではなかったーーあそこは
地上8500メートルを超えるこの地球上で
もっとも高い場所に存在する壁なのだ
しかももろい
酸素は地上の3分の1
低酸素が羽生の肉体と精神を
蝕んでいるはずだーーいったい
どれだけの精神力が
あの登録を支えているのか
もう
いい...
ハア
くくく
やめろ
っ
もう
やめよう..
ハッ
やめて
くれー
羽生
ハッ
ハッ
ーい
こ...
こんなの
ハッ
こんな登攀
見てられる
かよ
もう
ごめんだ
...
もう
おれの構えた
ファインダーの中で
人が落ちるのは
見たくない
ハッ
しかも
あいつは
...
ハフ
おれのあの
ひと言のために
今頂上直下の
あの壁を攀って
いるんだ
ハッ
冗談じゃ
ない!
これ以上
つきあい
きれるかよ
ぐっ
くそっ
〝逃げるのか!?
"ここまで来てまた
逃げるのか、深町〟
声が
聴こえた
〝おれを撮れ〟
...羽生
〝おれが逃げ出さ
ないようにな
〝おれを
撮れ!
...
わかったよ
羽生
逃げようと
したのは
あんたじゃない
この
おれ自身
だったんだ...
いいだろう
撮ってやるよ
落ちる
おまえの姿を
おれが
撮ってやる
どこだ
どこにいる
羽生
ん!?
...
雲だ
なんて
ことだ
ついさっきまで
雲なんてどこにも
なかったはずだ
どうして
急に...
ああ
...
だめだ!!
どこだ!?
羽生!
だめだ
羽生
逃げろー
どこに
いるー
...
...まさか
落ちた
のか!?
おお!
いた
いい動きだ
思ったよりも
ずっと上にいるぞ
難しいところを
クリアしたのか
頂上まで
あと...250
メートルほどた
もう
南西壁に
流れ込み
はじめている
西稜から吐き
出された雲が
ああ...
くそっ!
いちど下へ這い下りてから
上昇気流にのって
岩壁を這い変ってくる
あの雲に追いつかれ
たら温度が下がる
逃げろー
...
はやい
羽生ー
...
視界が悪くなって
ルートが読めなくなる
風が強くなる
いいことは
ひとつもない
...
羽生ー
ああ
逃げろ
ーっ
同じだー
深町は、
そう思った
1924年6月8日
オデルが見上げる視界の中で
マロリーとアーヴィンが
エヴェレストの
頂に向かって登ってゆ
そしてーーマロリーと
アーヴィンは帰って
こなかったのだ
あの時と同じだ
今おれは
オテルの役をやっているのが
と深町は思った
ならば..
羽生は
ーい
羽生
ああ
それからすぐに羽生の姿が
這い登ってくる雲に
包まれて消えた
羽生
...
そして
エヴェレストの頂が厚い雲に
覆われて見えなくなった
フッ
フッ
羽生はできるだけ氷が岩に
付着している個所にフックする
フー
フッ
ホールドはコツコツ
ていねいに削る
逆層に重なった岩はくずれやすい
うんざりするほどぺースは進まない
フフフラスをオフランスを
落石に神経を集中する
雲の動きが
思ったよりも
早いぞ
風が...
でてきた
雲に包まれ視界が悪くなる
ほとんどーメートル先が
見えなくなってしまった
もろい岩壁である
腕や脚の筋肉には常に
強い力がかかる
フッ
パランスを保つ体勢を
維持しつづけるため
フッ
ゴールが見えない
ハフー
ハフー
全身の筋肉が軋む
あと
少しだ
とにかく..
この壁を直登
してゆけばいい
まっすぐだ
まっすぐ上に
向かえば
頂に
出る
お...おれは
動けるまで
動く
フッ
フッ
フッ
ハア
ハア
時間の感覚が
薄れてゆく
...??
ああ
...
おれは...いったい
いつからこの壁に
はりついているの
だろう...
いったい...
おれはどこに
いるのか...
この壁に...
果てはある
のか.....
あれ
その時ー
あたりが急に暗くなってきた
もう
夜か...
フウ
いや...
フウ
まだ
...
これは
あれだ
あれ
...
まだだ
まだ夜なんか
じゃない
そう...
酸素だ
酸素が
薄いので
見えなくなる
前にも
いちどあった
酸素を
もらって
すったら
ハッ
ハッ
ハッ
あの時
...
急に
ひるまになった
あかるくなった
酸素の
せいだ
だが
大丈夫だ
フッ
おれは
ゆく
まだまだ
やれる
手も足も
動く
!
ゆける
までゆく
まっすぐに
ハァ
まっすぐ
上までだ
フーー
ハア
ハァ
いいか
休むな
フーー
ゆるさない
休むなんて
おれは
許さないぞ
休むときは
死ぬときだ
ハァ
ハァ
ハア
生きてる
あいだは
休まない
フッ
おれが
...
休まない
ハァ
ハッ
ハア
フッ
ハッ
おれにやくそく
できるただ
ひとつのこと
フッ
フッ
フ
フ
休まない
ハッ
ハッ
ハッ
ハッ
ハッ
ハッ
ハッ
フッ
フッ
ハフー
ハフー
ハフ!
フー
フー
...
マロリー
アーヴィン
さし
...
よく
きたな
ハア
フーーー
フーー
ハア
おれたちは
やったよな
もう
いいか
もういいか
フッ
さし
フッ
もういいか
!!
まだか
もういいか
きしよう
だれも
しらないけど
やったよ
しんぱい
するな
きし
やった
やったってことは
おれのものだな
おれだけの
...
そうか
まだか
そうだな
...
立ちあがったら
ゆくのだ
ものな...
まだだな
ゆくのだ
フ
フーー
きあ......立て
さあ......立て
たちあがれ
たちあがれ
体力が
ひとしずくだって
のこってるうちは
ねむろなんて
ゆるさないぞ
ゆるさない
足が動かなければ手であるけ
でがうごかなければ、ゆびでゆけ
ゆびが動かなければ
歯で雪をゆきを
かみながらあるけ
フゥ
フゥ
フゥ
はもだめなら
目であるけ
目でゆけ
目でゆくんだ
めでにらみつけ
ながらあるけ
めでもだめだったら
それでもなんてもかんでも
どうしようもなくなったら
ほんとうにほんどうに
ほんとうのほんどうに
どうしようもなくなったら
もうほんとうに
こんなぎり、あるこうとしても
だめだったら
思え
ありったけの
こころでおもえ
想え
第39話
S頂の夢
12月19日-
..
その日の夕刻
ハッ
ハッ
深町はベースキャンプにたどりついた
アン・
ツェリン
深町
さん!
ハア
ハア
よく
もどられた
羽生は
羽生は
まだか?
いや...
きのうの
朝
無線で文信を
したのが
最後だ
...
きのうの
交信では
疲労が濃く
呼吸が
早かったが
ビカール・サンの
声はけっして
弱よわしい声では
なかった
8000メートルの
高所で四泊も過ごした
人間とは思えぬほど
力強い声だった
...
食糧
は?
とその時
私は
聞いてみた
切りつめて
あと
一泊半くらい
はある
大丈夫か
ああ
頂へ行って
もどってくる分
くらいは
ぎりぎり
ありそうだ
わかって
いる
行くのか
ああ
無理は
するなよ
頂上へ
そう...
それきり
頂上へ
ビカール・サン
とは交信を
していない
...
頂上へは
イエローバンド
から直登すると
言ってましたか?
いいや
ただ
頂上へゆくと
それだけ
...
おれが
おれが
いけないんだ
...
アン・ツェリンはこの時
羽生が頂上直下
ウォールを直登した
ことを知った
おれが.....
いけないんだ
おれが羽生に
あんなことさえ
言わなければ
...??
...
たとえ
あんたが
何を言おうと
また何を
言わなかろうと
そんなことは
ないよ
深町さん
羽生は
あの壁を
目の前にすれば
必ず
襲ったろう
それが
ビカール・サンだ
深町がベースキャンブにもどった
翌日からうそのような晴天が
つづいた
深町はアン・ツェリンと
共に羽生を待った
12日待ち
3日待ちー
4日待った
きょうで
もう5日目に
なるか...
もはやどういう状況を考えても、
羽生がエヴェレストで生きている
ことはあり得ない...
どう考えても
羽生の食料は
尽きて
しまっている
しかし―待つことを
やめようとはふたりとも
口にできなかった
奇蹟が起こるような気がした
【羽生ならば
あの羽生ならば
今すぐにでもあるいは
明日にでも
ひょっこりと
アイスフォールから
このベースキャンプに
降りてくるような気がした
そして7日目
結局羽生は
もどってこなかった
深町さん
......
それでも
もどらな
ければ...
あと
...
今日1日
だけ待とう
あきらめ
よう
8日目ーふたりは
ようやくベースキャンプを
下りる決心をした
この間、
何人かのトレッカーに
見られていた
ベースキャンプに張られて
いた彼らのテントは
12月27日
ベースキャンプに心を残し、
深町とアン・ツェリンは山を降りる
その頃
チェックボストには無許可で
エヴェレストを狙っているものが
いるという報告が届いていた
ちょっと
待って
ください
こちらに
無許可愛山の
報告があった
ものでね
許可証は?
見せて
もらえ
るか
...
そして結局深町は
無許可登山を認めた
羽生の挑戦を知り写真を撮るために、
自分も加わったのだと事情を説明した
あれこれと妖雑な
やりとりのなか
書類にサインをして
最終的にはネパール政府に
登頂料の100万円を
支払うことになった
深町はこれから10年間ネパールへは
入国できないことになる
アンツェリン自身もしばらくの
営業停止となった
それが今回の無許可でやった
登録行為の代償であった
アン・
ツェリン
あんたにまで
迷惑をかけて
しまった
すまない
深町
さん
あんたが
あることは
なんもない
2年間の
営業停止と
いっても
外国人のガイドが
できないだけで
ボーターとして
働くことはできる
これは
覚悟のうえで
やったことです
あなたは
後悔してますか
...深町さん
いいえ
行かなかったら
そのことを後悔
していたで
しょうな
ちがい
ますか?
いや
そのとおりだよ
ナラダール・
ラセンドラ
変わり
ましたね
深町さん
また
会うことに
なるでしょう
いつでも
あなたの力に
なります
それから
これを
受け
とって
ください
...
これは
あなたが持って
いた方がよいと
思います
アン・ツェリン
ひとつだけ
訊いて
いいか...?
羽生は
あの壁を超えて
頂上に立つことが
できたと思うか?
...
何です?
深町さん
フフフランス
わたしはあの壁を
直接この眼で見た
こともあります
そして
...
あの島を
登れる人間がいる
とは思えません
あれが
どれだけ
危険な壁が
よく知っています
わたしの
これまでの
山の経験に
かけていえば
しかし..
あの羽生が
どういう壁を
相手にしたにしろ...
その壁から
落ちる姿も
想像できない
のです
...
どうで
しょう
これで
答えになって
いますか?
いや
ありがとう
アン・
ツェリン
ナマステ
ナマステ
窓からエヴェレストを
含むクンプヒュール
山群が見えた
羽生はまだあの雪の中に
いるのだろう!
そして雪の中から
エヴェレストの項を
見つめつづけている
のかもしれない
カサ
あ
これは...
ベスト・ポケット・
オートグラフィック・
コダック・スペシャル
ロリーのカメラだ
第40話
§東京
夢を見ている...
頂の夢だ
また:この夢か
いや...少し違う
頂を目指して拳ってゆく
男がいない
誰もいない
足跡だ...
新雪をラッセルしながら
頂上へと向かっている足跡だ
その足跡は頂で
途切れていた
下っていない
ただ白い頂だけが風に
さらされている
の足跡をつけた人物は
ご〈行ってしまったのか
どういう答えも
その風景の中に
残されていない
ただ頂と足跡だけが
そこにある
そこにあって
ただ風に
吹かれている
成田空港
...
だ。
...
...
2015
ああ
...
そうですね。また、
JL952便
ソウル行き
乗り継ぎの
お客さま
南ウィング
第7ゲートへ
ご移動下さい
帰って
きたんだ...
これで
...
本当に
終わってしまった
の力...
おお
少し
やせたかな
深町!
どうなっ
てんだ?
おまえか
迎えにくる
なんて...
宮川
元気
そうだな
行こう
おいおい
なんでそんなに
急ぐんだよ
話はあとだ
事情は車の中で
説明する
羽生丈二の
ことだ
......
電話じゃ
言わなかったけど
日本じゃ
大変なこと
になってる
あの男が
ネパール政府の
定めた規則を
破って
エヴェレストの
登頂を狙った
ことが大きな
話題となって
いるんだ
羽生ヌニカ
生きていて
そういうことを
全てたということで
まず
山岳
関係者が
騒いだ
エヴェレスト
南西壁冬期
無酸素
単独登頂
そのテーマ
そのものにも
話題性があった
からな
...
しかも
それをやろうと
した人間が
あの羽生丈二
であったと
いうことがさらに
話題を大きくした
ということだ
そして
決定的
だったのは
規則を破って
山に入った
あげくに羽生が
帰って
こなかったこと
...
つまり
羽生が死亡したことが
それを業界だけの
話題としてとどめて
おけなかったのだ
わからんのか
深町
海外の山での
日本人の遺影
事故だぞ
しかもそれが
ある程度の知名度を
持った
人間
なら
当然
一般紙の記事の
対象となる
...
これだけ
話せばわかる
だろう
ああ
おれの名も
出たという
ことか
そうだ...
羽生の登場に
同行したカメラマン
深町誠も今
話題になって
いるんだ
あちこちの
雑誌やマスコミが
おまえの持っている
フィルムを
欲しがっているんだ
このまま自宅に
帰ってみろ
とんでもない
ことになるぞ
部屋が
とってある
新橋のホテルだ
東京
五つ星とは
いかんか
10日か
そこらだ
がまんしてくれ
それと
すまん
これは
今までの羽生に
関する記事だ
雑誌や新聞の
コピーとテレビの
ニュースのビデオも
ある
...なんとなく
想像はつくよ
そうさ
みんなつまらん
記事だ
読み
たくなけりゃ
読まなくてもいい
とりあえず
参考のためと
思ったんだ
わかった
また
明日くる
今日は
ゆっくり
休め
すまん。
恩に着るよ
宮川
楽しみに
してるぞ
ああ
羽生とマロリー
のことを
聞かせてくれよ
ああ
これが
世界の最高峰
エヴェレストの
映像です
12月28日の
ネバール政府の
発表では
日本人のクライマー
羽生丈二さん
50歳が
エヴェレストの
南西壁で行方
不明となっている
ということです
すでに
消息を断ってから
2週間が過ぎました
その生存は
ほぼ絶望的と
みられています
山岳関係者の
中にはこの
羽生丈二さんの
登頂を
あまりに
無謀な計画
てあったという
コメントか
とれています
そうですね
......
若い時は天才
クライマーとまで
言われていました
ほんとうに
残念に
思います
ええ
なんとなく
彼か今なぜ
エヴェレストを
狙ったのかという
こともわかります
しかしもう
年齢的にも
ヒークを過ぎた
クライマー
てしたからね
1007年「東京山岳協会
エヴェレスト南西壁島山隊の羽生文二さ
やはり...
無理だったの
てはないかと
南西壁の
冬期にしかも
無酸素て
単独なんて
とても
考えられ
ませんね
そこは..
今でも誰も
なしえていない
登録ルート
だったんです
おそらく
羽生は死を
覚悟して挑戦
したのだと
思います
深町は宮川の帰ったあと羽生の
ニュースを再生し記事を読んだ
に欠K晋
HCHコKム歴思劇
禁煙Gへのヤルー受けた
しかしどれも
羽生丈二を知らない
人間の言葉ばかりだった。
それは今回の羽生の
登攀に対する批難や
中傷ばかりのように思えた
“無謀”山を甘くみた”
ーーそういう論調の記事や
コメントが載っていた
新聞がほとんどだった
”売名
ですよ!
〝単独といっても
カメラマンが同行
していたんでしょう!!
“羽生も
これでひと花
咲かせて復帰
したかったんじゃ
ないですか!!
みんな
でたらめだ!!
だれも
羽生のことを
わかっちゃいない!!
何も知らない
人間があの羽生に
対して何を
言えるのか!
くそっ
何をコメント
できるって
いうんだ!!
売名も
復帰も
ゴミみたいな
もんだ
南西壁への挑戦ーーその
羽生丈二の真実をとのメディアも
伝えてはいなかった
羽生はもっと違う
もののために...
もっと別のもののために
南西盤をやろうと
したんだ
翌日
どうだ
すこしは
疲れは
とれたか?
腹立たし
くてな
おまえが
こんなものを
置いて
いくから
だぞ
いや
いや
眠れなかったよ
それとも
宮川
おまえの
作戦か
フフ
なあ深町
すまん
すまん
とも
いえるかな
書けよ
うちの雑誌に
本当の
ことを
書くんだ
フフフラス...
羽生の
南西壁の
真実を
おまえ
なんのために
羽生の写真を
撮ってきたんだ?
ダイ
...
おれが逃げ出さない
ようにな
深町
おれは
怒ってるんだ
やるよ
宮川
...
深町
...
まさか
なんだ?
これは
見てくれ
あ...
お...おい
こ...これ
深町
マロリーの
カメラだ
す...
すごい..
書くよ
あのつまらん
コメントをした
連中に教えて
やるんだ
深町
どうした
おまえ
顔色まっさお
だぞ
その夜ー深町は発熱した
40度近い高熱だった
翌日!!
...
..
翌日ーー知人の工藤英二の
病院を訪ねた
深町はネバールで何か
悪性のウィルスに感染
したのではないかと思った。
心配ない
ただの
風邪だよ
あんた
羽生に同行
してたんだってな
あっちで
いろいろ
あったんだろ
おそらく
精神的にも
肉体的にも
かなり疲労が
たまってたんだ
日本へ戻って
ほっとしたところで
インフルエンザの
ウィルスが暴れだし
たんじゃないかな
安静に
していることが
一番だ
2〜3日
のんびり身体を
休めることだな
そのまま深町は工藤の病院に
3日間ほど入院し静養することになった
張りつめていたものから開放
されてようやく安堵感の
ようなものが心地よく深町の
全身を包み込んでゆく
時折り襲う
高熱にうなされながら
深町は想った
涼子...
涼子に会いたい
...
第41話
S山狼伝
退院の前日ーー宮川から
連絡を受けた岸涼子は
病院を訪れ、深町を見舞った
そして
...
それが
羽生の姿を
見た最後に
なったんだ...
正直
今でも
生きているのか
死んでいるのか
わからない
でも..
結局
いろいろな
状況を
考えると...
ええ
わかるわ
あのひと
らしい...
姿の消しかた
だったのね
なんだか
...
これで
わたしも
ふっきれ
そうな
気がする
...
涼子さん
...
はい
...
どうしたの?
...おれ
よく
わかったんです
エヴェレストで
ひとりぼっちになって
ようやく
気がついたんだ
涼子さんが
好きだって
ことが...
...
エヴェレストの
氷壁に
張りついて...
もう
身動きが
とれなくなって
...
もうこれで
死ぬかも
しれないと
思ったとき
急にたまらなく
あなたに会いたい
と思った
カトマンドゥでの
ことがいろいろと
思い出されて...
もし生きて
帰ることが
できたら...
真っ先に
会いに行こうと
思った
わたし...
あの時は
本当に
楽しかった
...深町
さん
いや
...
ごめん
ただ
おれの..
本当の
気持ちを...
...あなたに
伝えたかったんだ
退院後
深町は記事を
書きはじめた
半分は宮川への義理
そして半分は怒りであった
宮川が副業軍長をしている
岳遊社の「地平線会議」という
アウトドア誌に原稿を書いた
いや、いや...
羽生の写真も載せて
「山狼伝」というタイトルで
羽生のエヴェレスト南西壁の
単独無酸素登録のドキュメントを
リアルに綴った
山狼伝
羽生大二の南西壁
岸涼子のことだけは
触れず
岸文太郎の死の真相に
ついてもきちんと書いた
そしてマロリーのカメラの
ことも一緒に発表した
結果として
羽生の登欒写真と
マロリーのカメラが話題となり、
深町を救った
あのまま何も発表
しなければー
深町はある意味では
ネパール政府の法を
破った犯罪者であった
そのまま仕事の注文も
減って業界から
消えても不思議は
なかった
ああ!!
そしてマロリーのカメラのことは
イギリスアメリカを中心に
世界中の話題となった
その
カメラは
どこで?
なぜ
マロリーの
カメラだと
わかったの
ですか?
マロリーの
遺体は?
見つけた
のですか?
それは
北東稜の
どのあたり
でしたか?
テレビにも取りあげられ
海外からも
深町に取材が来た
その波も2月いっぱいで
去ったー
カメラは遺族に渡すことで
話がまとまった
深町はその間に得た
収入でネバール政府に
罰金を払い
残ったお金をアン・
ツェリンの元へ送り
それできれいさっぱり
収支はとんとんになった
そして3月になって
ようやく深町に
日常がもとった
しかしそれは前とは
違った目常であった
T淡々と日々は過ぎてゆく
ハッ
ハッ
5月
ハッ
ハッ
深町は陽光の中を
走っている
「日8キロ走る
これが2月からの
日課になっている
特別な事情がなければ
毎日走る
深町の日常は
今、穏やかになった
ハッ
ハッ
ハッ
しかしその日常にまだ
深町は馴染んでいない
心も身体も馴染みきれずにいる
ハッ
ハッ
何かが変化していた
ハッ
ハッ
―以前と自分が変わってしまった
ことだけはわかっている
ハッ
ハッ
ハッ
自分の中で...
何がどう変化したのか
深町はそれを言葉に
できなかった
なにかが
足りないのだ!
ハッ
ハッ
何故走っているのかと
考えながら走る
何を自分は
抵抗しているのか
何に抵抗しているのか
時間が過ぎてゆく
ー薄い時間だ
濃い時間を自分は
もう知ってしまった
あの骨の軋むような時間
ここには吹雪も血まで凍り
多くような寒さもない
チカ
チカ
フッ
あの日の再会から深町は
涼子とつきあうようになった。
キュル
キュル
涼子です
ごめんなさい
きょうの飲み会
少し遅れます
9時頃に
なるかな
必ず
行きます
涼子とはうまく
やっている
このまま自然につきあい
工藤さんに
よろしく
お伝えください
ブーッ
いずれ一緒になることになろ
だろうと深町は思っている
涼子...
1何かあるとするなら、
涼子は気づいていると
いうことだ
この深町の胸に燻る
焦燥に
おそらく深町自身よりも
涼子の方が気づいている
ーよくわかっている
深町の内部に褄みついた
羽生丈二という男の存在に
2か月前
また山に
行こうとして
いるんでしょう
行くん
でしょう
いやよ
...???クラスラス?
もう
わたしの知っている
人に山で死んで
欲しくない
行かないよ
...
行き
たくても
ゆけないんだ
自分はただ
走っている
だけなんだ
走ってないと
落ち着か
ないんだ
じゃあ
なんであんな
怖い顔で
走っているの?
え?
そのことが話題になった
のは、その時だけだった。
会っても互いにそのことは
口にしない、口にするのが
怖いからだ
しかし...
今自分はあれを
なつかしがっている...
あれを恋しがっている
あのテントをたたく
ブリザードの音を...
薄い大気を
それを思い出すと心がひやりと
ざわめきそうになる
深町
おまえ
走ってるのか?
今でも
ああ
走って
いるよ...
まだ...
あのことを
忘れられないで
いる...
もう充分
じゃないのか
やれることは
やったんだ
深町
あれ以上
何ができたと
いうんだ
宮川
あんたには
感謝してるよ
たしかに
仕事が増えて
作品が認められて
ギャラも上がった
深町誠という
存在が世間に
認められもした
だけど
今..
以前ほど
そういうことに
興味がもてなく
なってきたんだ
深町
また
まだ
終わって
いないんだ
わからない
...
おい
何が終わりじゃ
ないのか
わから
ないから
おれは
毎日走って
いるんだ
...
なにかの
未練のように
一満たされない
飢えを持った獣
潜んでいた
それが深町の内部に
羽生丈、という獣が
第42話
根
男たちは元気だった
メンバーは5人
去年4月にエヴェレスト
遠征に参加した
山仲間達である
アハハハ
関西
おれは
今年で
58だ
また
行こうぜ
みんなで!
年なんて
関係ないっスよ
気力
気カ!
もう
ヒマラヤは
むりかな
何言ってん
ですか
工藤さん
エヴェレスト
登頂の
最年長は
たしか60歳
だったかな
そんな記録なんか
塗りかえちゃえば
いいんだ
そうだ
そうだ
ぷっ
ほんとか
山には
行ってるん
でしょう
田村さんは
まだ現役なん
ですよね今
いくつでしたっけ?
うん
たまにね
近場だけど
丹沢とか
穂高とかわ
ぐびっ
それでもさ
山に行って
ほんの少し清い
気持ちになって
帰ってきても
仕事が
待ってる
3日も
しないうちに
あっという間に
現場復帰
だもの
もとの汚れが
張りついちま
うんだよね
これが
おれはさ
理解
ある上司を
持ったおかげで
結局損しちゃった
みたいだな
実はさ
去年
エヴェレストに
行く時勤めを
辞めるつもりで
辞表を出したんだよ
へえ
有給まとめて
使っていいから
というお許しが
でたんた
でしょ?
ところが
それを
部長が
破り捨ててさ
だからさ
またヒマラヤに
行かせてくれなんて
とても言い出せや
しないよ
たぶん
あれが
おれの最後の
ヒマラヤだったん
だなあ
いい話
じゃないか
飲め
飲め!
それでも
おまえ
おいおい
なにしみじみ
してんだよ
増田!
いつだったか
これで
山へのふんぎりが
ついてせいせい
したとか言ってたぞ
へ?
そんなこと
言ったかな
おれは
あの時仕事
辞めちまった
もんだから
いまだに
定職が
ないんだよ
おれほだよ
......もぉくんっ
しかも無職
ぐびっ
おまえには
自由が
あるじゃ
ないか
いつだって
山へ行ける
いいよな
仕事のある
人たちは
おれ
くうっ
おい
滝沢
泣くな
泣くな
だからさ
...
行こうよ
また
もう
野垂れ
死にの覚悟はでき
ちゃってるんだ
ああ
エヴェレスト!
エヴェレスト
かあ
行きたいよなあ
船島と
井岡
考えてみれば
あのふたりまだ
エヴェレストに
いるんだよなあ
...
井岡の
ダジャレにゃ
まいったね
全然
笑えないん
だもん
アハハハ
そういやあ
船島も
けっこう
ドジでなあ
あいつ
岩の陰で
ウンコしながら
羊義喰って
たんだぜ
みんなに
ばれると
とられちまうと
思ったんだよ
だから
あいつ
こんな
でかいの
いそいで
口の中に放り
込んだんだぜ
あとでみんなで
大笑いさ
クソヤロー
ってさ
山屋をやって40を
過ぎればたいていは
知人の誰かが山で
死んでいる
しかし死んだ友人の
話は他人が想像する
よりずっと明るい
船島
みたいに
大酒飲みで
甘いもん
好きな奴を
みたのは
あいつが
最初だ
ぐび
ぐび
いつもよりビッチが早い
少し酔いがまわってきた
深町
おまえ
すごいな
記事読んだよ
よく
あそこまで
羽生に届いて
いけたよな
いやもう
ボロボロ
ですよ
羽生には
助けられるし...
それでも
おまえが
あの羽生の
最後のサイル
パートナー
だったんだろ
いえ
逆に
足ひっぱって
しまった
みたいで...
アンザイレンは
してません
でした
羽生の登場は
単独行でしたから
それに
しても
8000メートル
近くまで登った
わけだ
そりゃあ
すごい
ことだぞ
最近
走ってるん
だって?
ええ
どこか
ねらってるのか
ほんとよく
やったよ
深町
このメンバーじゃ
きみが一番
若いんだ
まだ
いくらでも
機会は
あるだろう
どこかやろうと
思って走っている
わけじゃないん
です
ただ一度
走りだしたら
滅みたいに
なって
いえ
そんなんじゃ
ないんです
やめられなく
なっちゃった
だけなんです
いや
ほんと
また
行きたいなあ
ヒマラヤ
みんな
よおし
こんどはおれが
リーダーだ
仕事なんか
やめちまえ
!
あそうだ
彼女は
どうした?
涼子さん
ここへ
連れてくるん
じゃなかっ
たのか
ええ
もうすぐ来ると
思います
おいおい
おまえ
いつのまに
彼女つくっ
たんだ
こいつ
どんな娘
だよ?
ひとしきり皆にからかわれなから
深町は飲んだ
この
ヤロ!
どうやって
騙したん
だよお
ひとりだけ
いい思い
しやがってぇ
久しぶりの飲み会で皆の
ビッチもぐんぐん上がる
深町は酔った
...酔っても
どこにいても...
いつも...
羽生のことを考えている
おれに...
自分の中に棲みつい
羽生という獣を
飼いならす
ことができるのが
その獣は...
放っておけば
いずれ静かに
なるのだろうか
いいんだから
そのうち
走るのをやめ
羽生のことを忘れてしまう
ことができるのだろうか
そのことを考えながら、
飲む
自然にピッチが
上がる
はわかる...
羽生という獣がどれだけ痛みに
敬意でどれだけ傷つきやすかったか
我儘で純粋
痛みを絶対に忘れない
その痛みで生きている
ううっ♪
酔いがまわった
吐き気がする
おい
大丈夫か
深町
ちょっと
トイレへ
足元がふらつく
..
っ
えー
おえ
ーっ
ふう
ぷうっ
あ...
酔ったか
少し飲み
すきたな
涼子が来たら
すぐ戻るからと
言ってください
大丈夫
です
はあ
ちょっと
酔いざましに
外に出てきます
わかった
気をつけろよ
深町の頭の上で桜が騒いでいる
ふう
花は全て散った、薬桜だ
夜の大気は熱くもなく寒くもない
心に痛いほどの新緑が
周囲に溢れている
その緑の匂いが風に
溶けて流れてくる
植物の官能的な匂い
それが深町の頭上で
ぎわざわとうねっている
深町の心のように
薬桜がうねっている
心かうねっている
何がざわめくのか
何がざわめくのか
何がこのおれをかきたてるのか
何がこのおれを
かきたてるのか
何故こんなに
苦しいのか
心が騒ぐのか
ううっ
うぷっ
苦しい
今聞の中に育ってゆく
生命の気配が
充満している
むせかえるほどに悩ましい
胸の奥に大きなものが
つかえている
それが肉体の奥から
せりあがってくる・
得体の知れないもの
大きい
凄いし
張り裂けそうだ
えー
はあ
おえー
はあ
はあ
はあ
まだ....終わらない
まだ何も終わっていない
まだ自分は旅の
途上なのだ
...おい
声がした
はっきりと羽生の
肉声を聴いたような
気がした
〝おれはずっと
ここにいるー
もう駄目だ
身体が震えた
もう止められない
深町の肉体から
それが堰を切った
ように溢れ出てきた
うぐぐ
火をこぼすように
眼から涙がこぼれていた
深町さん
りょう
...アレ
お店に行ったら
工藤さんが
ここにいる
だろうって..
深町
さん
いいのよ
行っても
いいのよ
この2か月
ずっとそのこと
ばかり考えて
いたのよ
フフフラフランスラスを
それを...
今日言おうと
思っていたの
行っても
いいのよ
あぐぅ
う...
ぐぐ
第43話
これまでは
「これはわれわれの冒険の歴史的クライマックスであったー
マロリーとアーヴィンは上へ上へと着骨を目指した。高く高く
人類が到達した最高点よりもなお高く登っていった」
1995年11月7日が時25分
ーーエヴェレスト北堂
標高7900メートル
フ
わたしは
独りだった
フ
天候の急変で
この場所に関じ込め
られてからすでに
3日が過ぎた
眠ろうとしても
眠れない...
外はマイナス
40度の改善だ
今まわたしは
1924年マロリーと
アーヴィシがたどろうと
したルート上にいた
1994年の5月
深町はネパールの
アン・ツェリンに
手紙を書き送った
ありがとう!!
いやあああいいじゃないけどね
...おまえ..
〝無酸素で
エヴェレストを
チベット側から登りたいと
〝使用するのは
ノーマルルート時期は
プレモンスーン期"
〝ぜひ協力してもらえ
まいかと書いた
わたしの計画では信頼
できるシェルパの存在が
不可欠であり
あなたの協力なしでは
この登録はなしえないと
返事はすぐには
こなかった
6月になり
7月になり
8月がすぎた
返事が遅れたのは
迷ったからであると
返事がきたのは
9月になってから
だったー協力すると
手紙にはそう記されていた
もう親しい人間を山で失い
たくないと...しかし協力する
あなたを死なせないために、
それから体力づくりと情報
集めの日々が続いた
そしてーチベットへ
モー
アンツェリンがナンバ・ラを越えて
ネバール側からチベットへ装備の
半分近くを運んできた
ナマステ
アン・
ツェリン
モー
モォー
再会
そして9月
標高8201メートルの
チョ・オユーに
登ることになった
この時は岸涼子も
いっしょだった
涼子は5800メートル
地点まで登った
涼子の意志の強さが
垣間みられた
初めての高所体験だったが、
高山病の症状はなかった
ハア
チョ・オユーの登録には
アン・ツェリンが酸素を
狙いで同行した
ハ...
ハ...
フッ
フッ
しかし深町は酸素を使用しない
同行者としてアン・ツェリンが
いたが、単独行のつもりで
必要なことは全て
自分でやった
エヴェレストとほぼ同じ
条件下で登る
ハア
ハア
フッ
フッ
ハア
ハァ
ハア
高度順応を兼ねた、この
登山で納得ゆく結果がでれば、
エヴェレストをやる
それがアン・ツェリンの
協力するときの条件だった
ハフ
ハフ
ハフ
そして
頂上へー
体調は良好だった
10月
チベットのティンリから
ロンブクまで入り
そこからさらに6500メートル地点
までヤクで荷を上げる
そこに前進ベース
キャンプを設営
涼子もここまで
ついてきた
そこで数日間
天候を待つ
わたし..
いま
エヴェレストを
見ているのね
信じられ
ない...
はぁぁ
わたし
待ってる
自分がこんな
ところに立って
いるなんて...
必ず帰って
きて!
わかった
約束するよ
涼子
フ
フー
深町はベースキャンプを
5日前に出発した
すべてうまくいったら
明日には彼らと
ベースキャンプで
再会する予定であった
しかしこの吹雪だ
まったく信じられない
天候の意変だった
今日で
5日.....
食糧は
切りつめて
きたが
ほぼ
3日半分の
食糧は
なくなっている
このまま
吹雪がつづけば
あと3日......
やはり酸素は
必要だった
かもしれない
ルートとしては
ネバール便
よりも楽だ
冬期の南西壁に
くらべたら
ハイキングの
ようなものだ
問題はこの
高度だ
無酸素
単独.....
などと考えるのは
無謀なこと
だったのか
11月8日―――晴れ
ガガカ
シュー
こちら
B・C
天候は
回復した
いけるか
シュー
どうぞ
今日は
8500メートル
まで行く
大丈夫
快晴だ
出発できる
そこに一泊して
次の日には
頂上に立つ
予定だ
食糧
は?
きりぎりあと
3日分はある
いいか
深町
さん
これだけは
約束してくれ
生きて
了解
無理は
するな!
帰ってきて
くれ!
...
...
...
...
必ず
戻る!
翌日
1995年11月9日
12時35分――標高
8848・13メートル
ハア
ハア
ハア
雪の模様の上を歩いている
ハア
ハア
フウ
フウ
這うようにして歩を
風が北東から吹いている
チベット側からだ
ハア
ハア
I980年
ライシホルト・メナーが無酸素
単独でエヴェレストの頂上に
到達した
この同じルート
ハッ
1924年の
マロリーと
アーヴィンも
ここを登ったろうが
ハッ
おお...
なんという風景だろう
ハア
ハア
ハア
マウシトエヴェレスドベと向かう一本の雪の廊下
天と地との境目につづく天の廊下だ
そういえば、
......信じら
れるか
おい
おれはいま
たったひとり
ローツェを
見下ろして
いるんだぞ
8516メートルの
その頂より高い
場所を
歩いている
ハア
...
信じら
れるか
ハア
おれは
とうとう
ここまで
やってきたんだ...
ハア
一歩一歩わたしは
近づいてゆく
ローツェよりもなお
高みにある場所に向かって
すべての山々の王
この地上の王
エヴェレストの頂
第44話
日神々の座
フゥ
フッ
フゥ
フッ
フゥ
フゥ
歩進み
ハフッ
喘ぐ
ハフッ
フゥ
フゥ
フー
フー
フゥ
1時間に100メートル
フー
フゥ
フゥ
フー
あと
どのくらいなのか:
もうすぐそこに
頂上は見えている...
フ
フ
あとどのくらい
これを繰り返せば
あそこに
たどりつけるのか
フ
何故登る...
深町は体力を
しぼり出す
フ
フッ
フ・
フー
何故歩く
こんな苦しいことを
繰り返すために
おまえはあの時
決心をしたのか
フ
何のために
フーー
あの頂に立ったって
答えなんかない
フゥ
.....もう
わかっている
羽生もそれはよく
わがっていたはずだ
フゥ
フゥ
フー
じゃあ、何故登る
フ
何故あるとこへゆこうと
するんだ
フー
フ
フゥ
ハア
フウ
もう少しだ...
すぐそこだ
立ちどまるな
フゥ
歩け
フゥ
見える!
見えるぞ!!
もう俺の眼の方が
頂よりも高い
もう少しだ
ああ
...
あ...
なにかが...
身体の中を這い
あがってくる
くう!
背骨を、血管を
こ...これは...なんだ
この感覚は...!?
ぐぅ
おお......
ネパール側が見えた
天が青い
美しい
ローツェも
ヌプツェも
プモリも見える
ている
あらゆる風景が広がっ
何という風景だろう
......。胸が..:服が
腰が......膝が:..
大いものが骨を突き抜けて
脳天を走り抜けた
おぅぅ
ああ...
そして
おれは地球を踏んだ
何故山に登るのか
何故生きるのか
そんな問いも答えも
ゴミのように消えて
巻天に身体と意識が突き抜ける
1995年11月9日15時から
標高8848メートル
もう...ここで
力が尽きてしまい
そうだった
フ!
だがまだだ
まだ終わっていない
フー
生きて帰らなければ
ならない
気がついたら大量の雲がクンプ氷河の
上空に湧いてエヴェレストに近づいてくる
頂上を下りはじめて1時間
それからさらに1時間
―北東の風が強く
なってきた
フゥ
フゥ
雲が頭の上を覆い
雪が舞いはじめた
視界が次第に悪く
なってゆく
風と雪の中を下る
ハッ
ハッ
雪の上につけた自分の踏み跡を
たどりながら下る
ハッ
!
ふぅ
酸素が薄く体力の消耗が激しい
集中力が散漫になってきた
18寺6分
深町はようやく8350
メートル地点に設営していた
テントまでたどりつくことができた
フー
ズズーッ
予定では7900
メートル地点まで
下るはずであった
フ
8000メートルより上には
どんなにわずかにしろ
長く滞在してはいけない
それがエヴェレスト無酸素
登繋の法則でもあった
フ!
フッ
しかしー今ここより下へ
下降することはできない
闇夜の下山は危険すぎた
あとひと晩
ここにとどまるしか
なかった
外は風と雪だ。
第45話
息生きる
1995年11月10日午前2時
標高8350メートルー
やはり眠れない
深町は寝袋の中で
風の音を聴く...
あぁ
お、おおお
、かまでも
井岡
様々な幻聴や幻覚が
襲いはじめた
おい
いかないで
くれよ
眠るなよぉぉ
深町い
彼らは寝袋の中に
までも入ろうとした
船島
お...おい
冷たいじゃ
ないか
やめろ
出ていけ!!
うう
――夢と現実との
境があいまいで
深町はほとんど眠る
ことができなかった
ところが羽生の姿だけは
幻覚の中にいちども
現れなかった
おい
出てこいよ
羽生
羽生.....
アハハハ
そっかぁ
おれの前に
幽霊になって
出てきて
しまうと
自分が死んだ
ことがはれて
しまうから
なんだろう
それで...
出てこないのか
なあ
羽生
おれは
やったよ
あんたほど
ではない
けどな...
エヴェレストを
やったんだぞ
単独で
だぞ
なあ
出てこいよ
なあ...
酒を飲みに
こいよぉ
深町はひと晩中
ぶつぶつと何かを
しゃべりつづけた
凍った寝袋の中で
自分の内部の死者
たちと話した
翌朝ーー11月10日
午前6時10分
風も雪も
止まなかった
疲労もピークに
達していた
ブッ
ブウーン
B・C
B:C
聞こえますか
フー
フ
こちら
深町
どうぞ
ガカ...
はいこちら
アン・ツェリン
天候はとうですか?
だめだ
風が
止まない
シュー
だけど歩けない
ほどじゃない
これから
出発する
おそらく
...
もうひと晩
ここにいたら
動けなく
なってしまう
今なら
動くことが
できる
シュー
ガガガ
わたしが
ノースコルまで
あがって待ってます
...
すまない
ガカガ...
わかりました
深町さん
なんとか
そこまで
がんばって
下さい
......
ガカ...
大丈夫
必ずできるわ
ヘースキャンプで
チャンを用意して
待ってるから
涼子
帰るよ!
必ず
帰る!!
カガカ
待ってる
から...
ズズー
ハフ
ハフ
深町はすぐに
下る準備を
はじめた
行動中に口にできる食糧を
少し残し喰える分を
おもいっきり摂る
食糧は残り1回分
ムシャ
ムシャ
テントも寝袋も放置
してゆくーーコッフェルも
ガスポンベも全部
午前7時32分
出発ー
今日中にノースコルまで
たどりつく
標高差1300
メートルの下降だ
午前10時27分
標高8100メートル
どれだけ
歩いたろう...
もう北東校が
200メートルは
下っているは
なんとしてもノースコルへ
たとりつかなければならない
それが深町の生き残る
ただひとつの方法であった
ノースコルにはアン・
ツェリンが待っている
深町/8050メートル
地点
そこにはテントも奨袋も
食糧もある
ノースコル(2008メートル)
空気も1000メートル
分は濃くなる
霧の中を雪が疾っている
視界が利くのは20メートル
ないだろうか..
はまちがえて
風が下がら雪とどもに吹き
上げてきて時に渦を巻いた
フーー
フ・
少しでも動きを止めると
風がたちまち体温を
奪ってゆく...
左手小指の
感覚がない
凍った石のようだ。
ぐぐっ
たぶん
この左手の小指も
...菜指ももう
だめだろう
生きて帰っても
切り落とすことに
なる
それから...足の指
何本かもだ
歩くただ歩く...
歩踏み出し
10回はその場で喘ぐ
ハフ
ハフ
ハア
ハア
そして、
また...歩
ハフ
ハフ
ハァ
ハア
...
フー
風がよけられそうな
岩陰を見つける
フゥ
フゥ
フゥ
最後に残しておいた
食糧
チョコレート1枚と
ビスケット3枚
あ...
ああ!
うう...
絶望がさらに
深くなった
行動食をなくした
再び歩き出すまでたっぷり
10分はその場を動けなかった。
フ
くっ
フー
れだけ歩いたろうか
もう時間の感覚は
失せていたは
腹が減ってい
しかし食い物は
フウ
何度か転び、違った
歩いているつもりで違う
フゥ
フゥ
フゥ
ハァ
ハア
これではだめだ
ころが
歩いているつもり
なのに
フゥ
いつのまにか
ずくまっている
腰が萎えていた
一気力までも
ハア
ハア
もう
やったよな
ハァ
ハア
充分やった
よな.....
ハァ
そうだな。
おまえは充分
やった
えらいよ
...
ハア
ハァ
もう休め!!
いや、
くくぅ
くそ!
だめだ
だめだ
のろのろと立ちあがり
歩く...
もう...
もう一歩だけ歩ご
ああ...
ッ
フー
よし
あそこまで
行って休もう
あそこに
岩棚が
ある..
あそこで
少し眠れはいい
眠って
即カヴめナ
ければ...
それは
...
それで
いいさ
ハア
ハア
違うように
IOメートル歩くの
IO分かかった
風と雪を避けるため
岩陰に回り込む
ハア
ハア
...
羽生!?
第46話
S伝説の登攀者
まさか
マロリー
......
こ...これは
フ
フー
マロリーか
.....どういう
ことだ
ハァ
羽生!
あんた
どうして
こんなところに
いるんだ!?
羽生は頭を睨みつけるように
その眼を見開き
死のその瞬間まで自分の
意志を保ちつづけていたのだ
......ルートを
間違えて
ここに...??
いや
フッ
そんなことは
あり得ない
フー
じゃあ
どうして
あ...
そうか
...
やったから
チベット側の
この場所に
いるんだ
あはは...
すごいな
あんた
あんた
やったんだな!
な.....
そうだろ
やっぱり
あの壁を
越えてあの
頂に立ったん
だな
羽生
やったんだな
羽生!
羽生
“そうさ
立ったよ深町
"おれは
羽生丈二だからな〟
〝おまえにいいものを
やろう!
持ってゆけ
...
おまえのものだ
これは...
なぜ
それは深町が灰色のツルム
での別れ際、羽生のリュックの
中に入れておいたものだ
羽生のポケットの中には
1枚のチョコレートと
ひと握りの干し葡萄
なぜこれを
食べなかった
......なぜ
残した...
羽生...
あんたは
まだあんたは
生きることを考え
ていたんだろう
ここで...まだ
絶望しなかった
ということだ
ちがうか?
それとも
...
これで
...
エヴェレストを
下りるつもり
だったんだな
これを
喰わなかった
...
最後の最後
まで単独行を
貫こう
として...
そしてもうひとつ
羽生の小さな
ノートがあった
ぺろんぴっなりと
だからあんでしょうか!!
くらくなたーなっ
った
もういいか
もういいか
さらにくらくまた
いからなかった
さいし。よろになったのか
と思った
なんできゅうにくらくなったのか、
わからなかった
まだか
あれだ、改
さんそがうすいので
みえなくなる
ハア
そうか
ハア
ハア
それで
視力が落ちて
ルートをまちがえ
たんだ...
ハア
しかし...
どうしてまた
この場所へ
酸素不足
か.....
ハア
羽生は
ハア
偶然か
それとも
...
ビヴァークでき
そうなこの場所を
記憶していて
ここまでたどり
ついたのか...
涼子
りょうこ
もういいか
もういいか
きしょ
きしょう
さあ
たちあがれ
たちあがったら
ゆくのだものな
いいかやすむな
思え
ありったけの心で
思え
想え
羽生
...
それから
この食糧も
ありがたく
いただいてゆく
このノートは
持ってゆくぞ
あんたの
想いを!
おれは
生きる
"マロリーのザックを見ろ"
あの中に
何が入っている
というんだ...
あんた...
見たんだろ
フッ
フッ
凍りついたザックを開けるのは
かなりやっかいな作業だった
途中何度も
やめようかと思った
フー
それでも10分ほどかけて
ようやくザックをこじ開ける
フー
体力が消耗する
ハフーッ
その中には当時の
高度計・マッチ
缶詰の固形肉
ハンカチに包まれた
手紙ー
...
やはり
フィルムは
入っていない
と思った時サックの
底でかたいものにふれた
あ
これは
...
それはまぎれもなく
70年前に撮影された
コダック製のプローニー
フィルムだった
“ベストボケットオート
グラフィック・コダック
スペシャル”で写された
フィルムだった
そうか
あの時
あんたはこれを
見つけることが
できなかったのだ
それで...
おれに
おれに...
これを見ろと
!!
わかった
この
フィルムに
何が写って
いるのか
おれが必ず
見届けて
やる
おれは
ここでは
死なない
生きて
帰るんだ
フ!
フッ
羽生よ
おれは
行くぞ
おれは
必ずノースコル
までたどりついて
みせる
必ず
生きる..
いいか
羽生よ
羽生の
魂よ
おまえは
成仏なんか
してないん
だろ
今でも
歯軋りを
しなから
この山嶺の
どこかで眼を
尖らせて
いるんだろう
おれに
憑いて
いいか
羽生よ!
おれに憑け
おれに
ついてこい!
ハフー
ハフー
羽生よ
約束するぞ
おれは
必ず生きて
帰る!
生きて帰り
そしてまた
山にもどって
くるだろう
それが
おれにできる
ことだ
ゆくぞ
羽生よ
深町は羽生の顔を睨み歯を噛んで
再び雪と風の中に足を踏み出していった
ハァ
ハフー
ハァ
ハア
ハフー
おれは
おまえだ
羽生よ
おまえのように
おれは休まない
もしも
おれが休もう
としたら
おれを
突き落とせ
おれを
殺せ
おれの
肉を啖え
ハア
ハア
ハア
そして今
私が思っているのは
人には誰にでも
役割があるという
ことです
結局一歴史は
私をマロリーとアーヴィンの
最後の目撃者・証言者として
選んだということです
ふたりのうちどちらが
エヴェレストに立った可能性は...
もちろんあります
そのかわり立たなかった可能性
だってあるわけですから
よく考えてみればあれは私の
姿なのです。そしてあなたの
この世に生きる人は全て
あのふたりの姿をしているのです
ワインは、今も
マロリーとアート
歩き続けているのです
そして、死はいつもその途上で
その人に訪れるのです
その人が死んだ時いったい何の途上であったのか
たぶんそのことが可愛なのだと思います。
N^E:オデル,1987年1月、ロンドンにて
最終話
®未踏峰
1924年6月8日
12時50分
シュフ
オテルの視界から
消えたマロリーと
アーヴィンは
シュフ
シュフ
シュフ
山頂までの最大の難関である
セカンドステップを繰り切る
シュフ
シュフ
シュフー
フーー
いけるか!?
アーヴィン
シュフー
大丈夫か
はい
無理するな
フーー
シュフー
いけます!
おまえは
ここで休んで
いてもいいんだぞ
私が頂上まで
いって戻って
くる
いや
シュフー
ぼくは
登る!
大丈夫
登ります
いけます!
シュフー
シュフー
...
わかった
だが
よく聞け
アーヴィン
シュフー
私たちは
予定より大幅に
遅れている
酸素も
すでに一本は
空になっている
あとの
酸素残量は
3時間ほどだ..
おそらく
...
でも...
ぼくはまだ
歩けます
登りたいんです
頂上にたどり
ついたとしても
下る時には酸素は
吸えなくなる
シュー
ええ
...
わかって
ます
どんなことが
あっても
かまわない
シュー
ぼくは
頂上に向かって
進みたい
アーヴィン
ぼくを
シュフ
ひとりに
しないで
ください
ふたりはそれぞれ空になった
酸素ポンベを捨てた
シュフー
シュフー
14キロの重量が減り
体力の消耗もそれだけ
少なくなる
そして
マロリーとアーヴィンは再び
山頂を目指して歩きはじめた
この時のマロリーの
決断について
のちにオデルが語っている
“それは難しい...というのも
登山家なら唯一困難を
あとにしたが最後
引き返すことは難しい
いや、マロリーにとって
それは不可能だ。疑問の
余地な《マロリーは前進を
強行したと思われる
>マロリーは彼自身の耐久力と彼の
同僚の耐久力とに等しく自信を
抱いていた
今行く手に楽しい顔でもないその山道が
目の前にあるというのに手を引いて
しまうことができるだろうか。
午後2時17分
標高8700メートル
フウ
シュフー
シュフー
ふたりは30分ほどかけて
サードステップを登り切る
フウ
頂上までの雪田は
思ったよりも雪が深い
ラッセルで体力を
消耗する
さらに時間も
容赦なく過ぎる
シュフ
シュフ
すでにヒマラヤの峰々に
日は暮れかかり
はじめていた
キュッ
キュッ
フ
フーー
少しでも酸素の残量を
保つためバルブをしめる
ハフー
もう少しだ
アーヴィン
ハフー
あそこか
山頂だ
頂上まであと
100メートルもなかった
シュフ
シュフ
シュフ
...私は妻のことを
った
ポケットの中に妻ルースの
写真と手紙がある
ハァ
私は娘の
クレアと約束した
〝エヴェレスト登頂に
成功したらこの写真を
頂上に置いてくると
ハア
ハア
...
ルース
クレア
愛しているよ
そして...:
マロリーとアーヴィンは、
エヴェレスト山駅付近で消息を破った
ー東京
1995年11月29日、
...お姉さんはわからないですよね
あれはいけないですから、やはりそう
はぁぁっはぁっ
だからこそ、あんな
それは...
思え...
ありったけの心でおもえ
思え
の山嶽ー第5巻くだ
もうひとつの山嶺」
すぐ目の前に生あたたかな息が匂った。反射的に顔面を銃で庇う。雪面が鳴る。熊の体重
移動で電煙が舞う。熊手のような鉤爪がふりおろされる。空中に折れ曲がった猟銃がはじ
け飛ぶ。両手がしびれた。やられるーそう思った。
一瞬、空気が凝結し凍りつく。すべての動きが停止する。
その時、熊とはちがうけものの体臭が鼻腔の奥を刺激した。肉と肉が激しくぶつかる振動
を感じた。空気が割れる。静止した内部の時間が再び動きはじめた。
気がつくと目の前にあのカモシカが立っていた。龍の姿はもうそこにはなかった。何が
起こったのか記憶を取りもとそうと試みる。信じられなかったーその事実をのみこむま
ためらわず引き金を探る
火花と轟音。強い衝撃が右肩にかかる。瞬間ー突進してくる態の前足がやわらかな粉
雪に足をとられて少し沈む。照準が的から微妙にずれた邪道。ーー館の偏平な額を滑った
強丸が分解写真のように盛り上がった肩をかすめ背中の毛を無いあがらせ後方へ吸いこまで
れてゆく。
はずした
熊との距離を目測する。近い。安全装置を外す。銃床を名肩にあてがい、そっと腰を屈
め膝撃ちの姿勢で構える。右頬骨の下のくぽみを銃床につけ、股間に目の焦点を合わせ
狙いをつける。
咆哮する熊の大きくあげた口腔から日濁した涎が飛び散る。黄色く太い大南が剣さ出さ
れ粘液で光る。黒々としした上毛が棘のように逆立つ。
「一足で立ちあがって成職していた熊は、ふいに四つん這いになり突進してきた。余裕は
ない。熊の眉間にもう一度賂準を合わせなおす。わずか女角度のずれが生と死を分ける。
谷ロジロー
でに、しばしのとまどいかあった。大脳に血液が巡り、思考が正常に回復するのを待ち
その事実を受けとめた。
まちがいなかった。あの時のカモシカだ。今まで見たこどもないみごとな筋肉をつけた
圧倒的な体撃をしている。その感骸に満ちた禁煙なただずまいは、あたりの空気を引き継ぎ
め、神聖な緊張感を生む。
やはりこのカモシカは。ヌシとだ。この山そのものだ。森であり、沢であリ、峰である。
空であり、雪であリ、風である。
―身震いが起こる。わけもなく涙が浮かぶ。ちた、あらためて目が開いたような感覚が
あった。
カモンカはシッポちつんと動かすと、風呂場かつて力強い跳躍を見せた。驚き、その後、
姿を見透る。山頂へ向かって透く女友達だ、テツの幻を重ね合わせた。おれは理解する。
幸福が透けてゆく。ああ...テツは神々の住まうこの山にとり込まれて生きているのだ。
空が少しずつ山梨におりてきて言えばらせはじめた、カキシカの足跡が消えてゆく。お
われた生命に感謝し、震える自分の手を見つめる。それして静かに掌を開いてみた...
「ビジネスジャンプ」HMTHPIがあり、
15年117号まで好評連載されたものを
恥ずしました
BUSNESSJUMP愛蔵版
神々の山嶺6
2013年5月25日第1刷発行
著者
夢枕獏
◎FackuTumenakuriakita!!
2003
谷口ジロー
@jiroTaniguchi-2002
絹集
株式会社ホームも
電話東京03-5211-2651
〒101-8050東京都千代田区ニック橋2-5-10
発行人
山路則隆
発行所
株式会社「集典社
〒101-8050東京都千代田区一ツ橋2-5-10
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大日本印刷株式会社
・場を料理フラムは
独合明は高せず
Fは記録でんる
、集英社制作部宛にお送り下さい。
一部または今回お任せでも!?私の
法律で認められだ場合を除き、学生様の
のは
て社人害と
!皆となります。
ISBN4-08-フ82788-?cog7c
それでも、
そのために、