まず、まともほらゆらこ ねえ制服が息する音聞いたことある? 風でスカートがひらめいた時 変な話だと思うでしょ? けどねこの高校ではあるんだよ だっていこうたって私たちの制服は... 白樫の樹に見守られるように伸びる長い小道 楽園を隠すような深い深い林 そこに私たちの星宮女学園はある もう下校時刻ですが大切なお話なので最後まで聞いてくださいね 冬休みが明けるとすぐに制服づくりがはじまります この制服のために我が校へ入学した子も多いのではないでしょうか 高等部の制服は長い歴史を持っています 中等部の子たちは貴方たちの制服を楽しみに待っていますよ 貴方たちを見守ってきた白桜の樹に恥じないようによい制服をつくりましょうね 制服が浮かれている気がする いっもいつも私ばっかり 手空いてる子なんていくらでもいるだろ レギ引っかけそうだったよ 君の髪はとても綺麗なんだから 大丈夫だよ口はつけてないから おかしいなみんなには好評だけどな 今以上の王子様になれそう ああ教室に来てないの? 図書館で見た子はいるみたい そういえばさ日直じゃないよね 最近寮に篭もりっぱなしだよ? 窓は開いてるから生きてるんじゃない? 学園長の孫娘か知らないけどさ先生たちも口出ししないしね まるで繭の奥にいる乙女みたいだって えーそれ自分で考えたの? その姿見たらほとんどの子が百年の恋から冷めちゃうよ ずっとやるのしんどいんだよアレキラキラ〜っ この姿は他の子には見せないよ どうして顔だけいいんだろうね あー聞いたことあるかも この制服息したなあって 都市伝説がなんかかと思ってたけど 自分の制服は特にね私の心と連動して そういうところまでわかる気がする 私この制服つくりたくてここに入ったんだ どんな子に私がつくった制服が届くんだろうって 大切に使ってくれればそれだけでいいんだけどすごく気にならない? 気づいてないとでも思った? 貴方が私から目をそらす時 王子様の顔をしてあの窓を見てること 王子様なんてやめちゃえ でも謝ったりしないから 昔大きな戦争がありました それはたくさんのものを。奪っていきました 誰かと笑うことも悲しむことも大切な人も 長引く戦争で国からはわずかな糸までもなくなってしまったのです そうだ髪の毛があるじゃないか すぐに髪の長い女性たちが集められました そこで偉い人は考えました それをそっと見ている女たちがいました 私たちの髪の毛も切られてしまうのだねそう思うといてもたってもいられませんでした 誰の手にも触れさせない、私たちだけのドレ 「そうよ切られる前に私たちの秘密のドレスをつくってしまいましょう」 彼女たちは自分の髪を切りドレスをつくりました それはとても美しかったそうです そして、ドレスを着た人は皆こう言ったそうです 「まるで服が息をじているようだ 秘密のドレス作りも、戦争が終わった今では昔の話 お姉様の制服をもらう新入生がうらやましいですわ 言える通じゃないと思う。王子様が そういえばさふたつ先の駅のケーキ屋さん柴犬マカロン出たらしいよ いま星宮さんの部屋から... 私たちの制服は髪で出来ている そういえば星宮さんは? これすごくデリカシーないよね 私みーこの聞かないから 髪の毛の長さが足りないと髪の毛切らないで帰されちゃうんだって 制服つくるための量が足りないんじゃない? 佐伯さんのほうが長いんだ 前から思ってたんだけど そうやってからかわれるの不愉快 こんなこと言いたくないんだけどな 高いトリートメントとか買えないし すごく素敵な制服になると僕思うよ 別に先生もダメって言ってなかったし...けど... ちょっと...ちょっとだけなら 少し待っていただけますか 「それ」が星宮さんのものだとすぐにわかった 一度だけ星宮さんと話したことがある ずっとワルツが好きだった はい三拍子を体で感じてね 午後からワルツの授業がある日は お昼休みに髪を結うそう決まっている 男役の子は相手の子をちゃんとリードして だからその日は少し悪いことをした気がしたの 長い髪をきちんと纏めて踊る彼女たちが 調和のとれたワルツが好きだったのに 見惚れ見惚れてしまったかっ ワルツの中に漂う彼女はあまりにも自由で どうして髪結ぼうとするの? そういえば星宮さんって どうして髪結ばないのかな ね!私踏んじゃいそうでヒヤヒヤしたよ いいよいぃよ気にしないで 絶対結んだほうがいいよね? そんなことないと思うけど... そうよね綺麗な髪だもの引っかけて切ることになったらすごくもったいない 私たちで星宮さんに合うようなバレッタかシュシュ買いに行かない? 星宮さんに似合う髪留め... 次の休みに外出届けをもらって買いに行きましょう 「そのまま一緒に踊って」 このワルツを壊してみたらどうなるのかしら もうコート着て風邪でもめされたの? ねえまた背伸びられました? 佐伯さんクッキー焼いてきたんだけど ごめんねちょっと僕急いでるから 今日こそクッキー受け取ってもらえると思ったのに〜 個人のプレゼントなんて受けとるわけないじゃない 王子様は遅れて登場するものだし 被服棟に入るのは採寸以来でしょ 高等部の授業にはついていけてる? カタコンべみたいですね あぁ地下のお墓?よく知ってるね 電気つけるから待ってて 被服棟のお墓かぁその表現いいね ごめん電気反対側の壁だったみたいそっち探してくれる? 卒業した子達が置いていった制服をここに閉じ込めているから また着てもらえるって嬉しくなったんじゃないかな それも王子様に選ばれるかもしれないって 卒業したら持って帰っていいんだけど置いていく子もいるんだよね 私もここは教師になってから知ったけど ここ開けたの佐伯さんのためなんだから準備して 合う制服が見つかるといいんですけど いやなんというか制服の気持ちもわかるな この中にもないね... 被服科の檜山先生と話したんだけど...ここになければ 佐伯さんの身長に合う制服 今着ている制服に普通の糸を足すしか んそうと決まればどうしようか 僕しばらくジャージ通学でもいいですよ どうして佐伯さんはこの学校入ったの? 母さんが女の子が生まれたら絶対ここに入れるんだって あぁわかるなぁ結構ここってお母さんの人気高いよね 母さんもこんな男みたいな真似事してるとは思いもしないだろうけど... それも髪になにかあったら 本当に大丈夫?怪我してない? すごく軽い髪だった... どこかに飛んでいってしまいそうなほど この制服も飛んでなくなってしまえはいいのに イケメンの兄貴に似て中等部の頃から割とそんな役割 一佐伯さんてかっこいいよね」 けれどこの制服に袖を通してからみんなの視線が少し変わった そう言われるのは嫌じゃなかったしこういうに学校生活を送れたから、どうでもよかった 誰かが言ったその言葉はすぐに自分の代名詞になった この制服によって王子様に変えられていくみたいに さすがにこの時間まで残ってる子はいないと思うけど 取り巻きの子もほんと懲りないよなぁ といってこのまま帰って母さんに学校のこと聞かれるの面倒だしなぁ... 君がどんなに軽くても空は飛べないよ もしかしてちょっとイタイ子...? 「自分も人のこと言えないけどさ ずっと遠くに逃げられるような気がしたのだけど 僕と一緒にここから逃げる? テレビでしか見たことなかったけどマジで長いんだ。髪 今こっち見て笑いかけたよ!! あれ星宮学園の子じゃない? まさか本当に星宮さんが来るなんてなぁ... 周りの反応もまぁこんな感じか... ただの綺麗なお人形さんかど思っていたけど 式典とかで、学園長の横に座ってる つーか自分もだよな... 小さくてまつげが長くて髪の長い 逃げるっていってもどうやってって感じたし、 なにか起こるかもしれないと なにか変わるかなとか思ったけど別にどうなるわけでもないしなぁ やっぱ帰ろうって言おう ほら喉かわかない?ちょっと買ってくるよ こんなささやかな逃避行に あんな嬉しそうな顔をするなんて 星宮さんこういうの飲むかな? 本当の里子様になった気になるし 君どうしたの?星宮の子でしょ ずっと遠くに逃げることが出来そう 嘘っぽいかもしれないけど 本当にどこかに行ってしまいそうだったから... じゃああなたが連れ出してくれる? 王子様がたとえ誰かに作られたものだとしても 君のためなら本当の王予様にだってなれるそんな確信があるから どこにも逃げられるはずないもの おばあさまが心配なさってます さあ学園に帰りましょう 君も気をつけて帰りなよ あなたのその制服苦しいのでしょう? もしまだこの学園に残るならこれを使って... 使うも使わないもあなた次第だけど あら佐伯さんおはようございます コートはもうよろしいの? ご指導のほどどうもありがとうございました! 洋子なにを見ているの? 雑巾がけありがとうもう戻って大丈夫よ ちゃんと最後までやってくれないと中等部に示しがつかないわ ちょうどバラ園は見頃だけれど... 佐伯さんを取り巻く寮組のお姫様方 そしてその輪に入れない佐伯さんの取り巻き あの中に私に押除をおこつけたやっかいろ 取り巻きザマアミロって感じ 佐伯さんに見てほしくて掃除の時間にせっかく髪を結い直したのに かわいそうに佐伯さんは寮組の美しいお茶会に取られてしまったとさ このままあんまりサボるようだったら私から注意するわ お友達が欲しいのに悪口や妬みを言っていては逆効果よ 友達のひとりやふたりは... いるようには見えないけど? それだから小言女とか言われるんじゃないの? そうね幼馴染だから許せるけど他の子に言ってはダメよ そんなことわかってるよ でももうみんな自分の繭を見つけてその中で肩を寄せ合って生きているんだ... 協調性のない私なんかお呼びじゃない... 私の嫌なところを知ってもそれでも 受け入れてくれる人がいるとしたら? 佐伯さんどうかされました? ああ王子様こっち見たのね 「横澤さんの髪綺麗だね 前に話してくれたじゃない一回話した時に洋子の毒のある言葉にもちゃんと返してくれたって ほほらみんなに言ってるお世辞だよ ううん絶対そうだって... 思ってないこと言ってその気にさせればいいって感じなんだよ 言ったことすら覚えてないんじゃない? 自分で言ってて泣きたくなるぐらいなら そんなこと言わなきゃいいのに もしかして慰めてくれてるの? うん大丈夫君だけいれば これ以上望んしだりしないから 佐伯さん見なかった?職員室に来て欲しいんだけど 横澤さん呼んできてくださる? 佐伯さんの場所ですか? 私今日の古典で質問が... 横澤さんが先程見ましたって こんにちはどなたかしら あら可愛い迷ってしまったの? どなたかのご招待?お名前は? 今日のケーキは私のお母様の手作りなの一緒にどう? そうだわ今お話がいいところでしたの それともクッキーのほうがお好きかしら? こちらの席で一緒にお話ししません? 今日の放課後僕が君のこと呼び出したんだ 敬語いいって言ったじゃん 僕あの日横澤さんと話したくて声をかけたんだよ そんなこと。言われたら... 被服棟で待てって言われたけど... 覚えてると思わなかった.. 高校入学式から一週間経った日 つり革ひとつも残ってないじゃん... なんで春ってこんな人多いんだろ... もうやだ学校行くだけで疲れちゃうよ... いつもはこんな時間にいないのに.. こういう時って普通だったら... 声をかげるとこだよね... 採寸の日にいちおう話してるんだもん...だいじょう... ...そうだよ...そうに決まってるって ひとりで勝手に勘違いするとこだった... 見つかる前に早くここから逃げよ... 電車が揺れますのでご注意ください お立ちのお客様はつり草や手すりにおつかまりください 髪の毛は...大丈夫... 靴も鞄も磨いてきたばっかだし... 次は星宮女学園前星宮女子医部 もじ本当にあの時のこと覚えているなら... でも少し安心してもいてま 誰かと関わって。辛い思いをしなくて済むって 少し濡らしてきたから目を冷やすといいよ。 他の子に言ってはダメよ お礼を言うのは僕のほうだよ ちょっと抜けだしたいなと思ってたから 横澤さんが呼びに来てくれて嬉しかった べ...別に私は頼まれただけ..だから... 外履きとか鞄が校内に残ってると取り巻きの子たちが僕のこと捜すでしょ?まくためにたまにここに隠すんだ そういえばさどうしてさっき覚えてるはずない」って言ったの? ...入学式終わったすぐぐらいに電車で...一緒になって すごく...近くにいたけど気がついて...くれなかったから: それなら話しかけてくれればよかったのに 遠くにいたわけじゃないんでしょ? そんなに難しいことじゃないよ 私にとっ私にとっては大きな問題なの やば...言っちゃった... やっぱり横澤さんおもしろいね おもしろいってどういう... もしも気を悪くしたなら謝るよ ごめん...お茶会で疲れてさ...ちょっともう無理... えこういう時どうする...あ:そ...そうだ 綺麗に切りそろえられた爪とか 手入れされて傷ひとつない髪の毛 ほこりひとつついてない制服 綺麗なシーツについたシミのように 見た目は・完璧な王子様だから いやでもクマが目立って 本当はここまでしてすべてから逃げたいはずなのに そんなそぶりひとつ見せずにあそこに参加してたんだ... 本当は佐伯さんも... 言葉になんて出来ない想い。 触れずにはいられなかった唇 甘く、ささやかな秘めごとは 決して誰にも知られてはならない 志賀昌子志賀純子中村歌子 【初出】月刊コミックビーム まゆ、まとうはらゆりに 本作品の全部または一部を無断で複製、転載、配信、送信すること、 あるいはウェブサイトへの転載等を禁止します。また、本作品の内容を無断で改変、改ざん等を行うことも禁止します。本作品購入時にご承諾いただいた規約により、有償・無償にかかわらず本作品を第三者に譲渡することはできません。本作品を示すサムネイルなどのイメージ画像は、再ダウンロード時に予告なく変更される場合があります。本作品の内容は、底本発行時の取材・執筆内容にもとづきます。また、ご覧になるリーデイングシステムにより.表示の差が認められることがあります。