あの日の冷たい床を... あの日凍ってしまったすべてをまだ私は覚えている... あの子は後悔しないのかしら? 最後にダンスの前に貴方の元に駆け寄ってくるぐらいはすると思ったのだけれど... このパーティーが終われば会えるのは断髪式と卒業式だけでしょう? 来てくれないほうがいいよ そうね壊されるのはとても痛いもの... 壊す側は壊される側にどんな傷がつくのかなんて考えもしない あの子なんて存在しなくて 変わらないこの場所でおとぎ話のような王子様とお姫様がいて... そうしたら貴方のこのダンスも少しは 傷つけられる前に戻れたならばどうなっていたのかしらね あの日受けた傷は消えないのね この傷がある限り私は私を愛すことができないなんて ただ自分を愛したいだけなのにね... 今日こそ傷つき失ったすべてを取り戻すわ ごあいさつをいただきます それではお願いいたします 私は後悔なんて残しはしない 僕は次なにすればいい...!? 貴方は私を選ばなかった この美しい星宮女学園を愛しています。 薔薇の香りが溢れるお茶会を愛しています 私はワルツを愛しています 卒業していったお姉様が大切に育てていた薔薇を一番近くに感じられるから ここを卒業したお母様と同じステップを踏めるのですから この学園の制服を愛しています。 この制服の髪の毛一本一本が私を見守ってくれているから そしてなによりこの制服こそがこの学園の変わらない絆だからです 来年また私たちはここに戻ってくるのですから また来年咲く薔薇の香りを楽しみ またこの学園でワルツを踊り また一緒にこの学園で出会いましょう 決して私たちは変わることがないのですから それがたとえどんな結果になったとしても なにか燃えてる匂いしません...? 先程の大声横澤さん...でしたよね 九条さんと踊っていた佐伯さんもいらっしゃらないわよね そこにいらっしゃったのにどこに... 佐伯華がさっき外出たわよ 机ないと変な感じだね... 冬休みが終わったらここで断髪式あるからかな 制服結構濡れちゃったね 泣きたくなるんだ... 変わってゆく洋子の隣でなにも動けなかった 私華のこと会った時から好きだったのかもしれない... 僕には洋子に好かれる資格なんてないから 本当の華を知っちゃうのが怖かった.. だから近づかないって決めていたはずだったのにね 今こうしている華も好き 変わってゆく華も好きになるよ もうあそこに戻る気はないけど ダンスすごい綺麗なんだろうな 一緒に踊ってくれない...!? こんなこと言う資格...僕にはないと思うけど けど洋子がよければ... 洋子とはじめて話したのここだよね あの時本当に思ったんだ 洋子は素敵な制服になるんだろうなって もし僕が君の制服を着られてたら そうはならなかったんだよ... 星宮さんを見かけたという生徒もいるし... こんなクリスマスはじめてですよ なにか異変ありました? いえこちらはなにもありません 「私は変わっていきたい」 透明な幼虫は羽化し一変する その羽の美しさを知らぬまま眠り続けられはしないから いつまでも繭の中の眠りが続くような気がしていた 繭の中の微睡が今終わる... 羽化した先は誰も知らない 少しでも温かなものでありますように 捜したのよ...ところで佐伯華は... もうほとんど原形は留めていないのだけれど せめて拾ってあげようと思って ..星宮さんが燃やしてしまったのね 今まで干渉しなかったのにどうしてかしらね... 寮の糸も焼かれてしまった断髪式で出入りも多いので隠しておけないわね これ以上動揺が広がらないようには:: すべてなくなってしまったのね それに寮組の地下にある糸が燃やされてしまったみたいは だから九条さんがあんなに... 佐伯さん学校にいらしてないんですって クリスマス会の日に色々あったみたいよ 私たちにはあまり関係ない話よね.. 合図があるまでお姉様の部屋の前で待機してください 今日が髪に触れる最後ですよね髪に触った瞬間泣いてしまうかも 今日のために私たちがんばってきたのですから 嫌ね...入って早々泣かないでよ 今日で最後なんですよね クリスマス会のお姉様の演説は本当に素敵でしたね 私はそんな枯れた薔薇じゃなくて 小ぶりで鮮やかな薔薇がいいわ これは九条お姉様に... 今日の夜にはすべて終わっているわ 私たちがお姉様の髪を梳かそうが梳かすまいが 私たちは美しいお姉様を覚えていましょう? 指のあいだをするすると通る美しい髪を ねえ、制服が息する音聞いたことある? 風でスカートがひらめいた時 変な話だと思うでしょ? けどねこの高校ではあるんだよ ちょっと洋子こっちちゃんと向きなさいよ 代われってうしろの圧がすごいの... 横澤さんタイミングよくこっち向いた瞬間撮れましたよ! ありがとうございます〜〜 毎日鏡見るのすら嫌なのに 佐伯華のことああやって変えたあんたがそれ言う? 佐伯だって変わるの相当辛かったと思うわよ 痛みをないことにしない洋子 ちゃんと後悔してきなさい ついでに色んなもの撮ってこいって... 今更撮りたいものなんてないし.. 後悔しろって...どうやって.. 制服の声が聞こえなくなったのは 制服との思い出ばかり撮っちゃうな 声が聞こえなくなった代わりに 少しだけ外のことが見えるようになった 渡されたこれどうすればいい? どうしたの?突然いなくなって お姉ちゃんが好きに食べてって 私がケーキ嫌いって知ってるでしょ 卒業式終わっちゃったねぇ さっきの電話の相手って... 今日、卒業する子の中に自分の制服を着た子がいるから会いに行きたいって なんか用事思い出したみたいで帰っちゃったけど その制服を着てる子愛されているんですね 愛さないわけにはいかないでしょ? 私も愛せますかね...? 変わっていく佐伯さんも愛せたなら 佐伯さんの分渡してあげて 寮に未来が描かれていないノルンの絵があるでしょう? 未来は唯一変わっていくもの... もしかしたら描かなかったんじゃなくて描けなかったのかもしれないって その未来の可能性を絵という形ですらも制限したくなかったのではないかって... その手に持っているものは...? 髪は本当に歳をとらないのね 私はこんなにもおばあさんになってしまったのにね 制服を脱いでからが始まりなんですよ 髪を切り制服を脱ぎまっさらになって そして未来になっていく... 少しあなたを閉じ込めすぎてしまったわね.. 私たちも変わっていけるかしら 制服を脱いでからが始まりなんですから 色んな想いを抱いていこう... 優しくありたかったという気持ちも優しくあれなかった自分も 次は自分の手で...取りこぼさないように... 行く前に会えてよかった クリスマス会のあと大変だったらしいよ でもみんな色々とよいところに収まったって:: 学校側も伝統の意味を調べ直したみたい 卒業生は制服にならなくちゃいけないと思っていたけど そんな強制するものなんてなかったんだ 僕は君から貰ったのにね 海を見て息苦しいと思わないなんて 昼だとこんなに遠くまで見えるんだね 広い海は自分のいる場所の狭さを感じさせるんだ 君もそれを感じていると思ったから 次一緒に逃げる時は君は僕を選んでくれると 本当は知ってたんだずっと前から... 思いたかったから会えなかった.. 答えを出さなきゃいけなかった.. それでも君のところへ行かなくちゃいけなかったんだ 私のこと見つけてくれて 日曜日の昼過ぎにみなとみらいに来て。半子に伝えたい事が日曜日の昼過ぎにみたとみたいにゃあなとからいこ来て。洋子に伝えたい事が生え!!ホテに伝えあるんだ。 メッセージ来たから横浜まで来たのに... 既読すらつかないんじゃ会えるわけないじゃん... もう髪だって...制服も着てないし... 別にひとりで楽しめるし ここに来た元くらいは取ろう さっきからずっとひとりでウロウロしてるから 俺も人だわ俺待ってた? 王子様みたいにはいかないか お前ッ前のタピオカの!! わ私そういうの興味ないんで!! あのあと大変だったんだぞ えっと...なので.. こういうの洋子苦手じゃないの? というか先に行かないでよ ねえ制服が息する音聞いたことある? 風でスカートがひらめいた時 もう私たちには聞こえることはないけれど 洋子と華のお話はここでおしまい。 ずっと先まで行ってくれる子たちなのだとも思います 私の手を離れてしまうのは寂しいですが いつか、私の元にふと顔を出してくれるんじゃないかと 小さく期待しています。 それは、ここまで読んでくださった貴方も同じこと。 さようなら、けれど、また、どこかで 「繭、纏う」を最後まで読んでください ありがとうございました。 志賀昌子志賀純子中村歌子 金子亮介菅沼ハコ加角遠石田ゆう まゆ、まと・ほらゆらこ 『アウトオブザコクーン』...描きおろし